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特集「最高のビッチ」

2018年1月26日

特集「最高のビッチ5」④ジェマ・アータートン
ビザンチウム(2013年 ファンタジー映画)

監督 ニール・ジョーダン

出演 ジェマ・アータートン/シアーシャ・ローナン/サム・ライリー

シネマ365日 No.2372

母の務め

特集「最高のビッチ5」①ティルダ・スウィントン

冒頭、意味ありげなナレーションが出る。語りはエレノア(シアーシャ・ローナン)だ。「物語の始まりはクララ。いつか彼女で終わる。クララは秘密に満ちた女。私の救済者。私の重荷。私の女神」このクララを演じるのがジェマ・アータートン、といってすぐピンと来られる方、多分少ないでしょう。彼女は32歳(2018)、ベテランにはまだほど遠いイギリスの女優です。デビュー作は「聖トリニアンズ女学院」のケーシー寮長。素行最悪の落ちこぼれ女子校「聖トリニアンズ」で、ガールズたちを治める寮長です。やることはむちゃくちゃだが心はキレイ、財政困難で売却される学院を救おうと、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」を、イギリス最高の美術館ナショナル・ギャラリーから盗み出そうといったのが彼女▼デビュー当時から彼女にはビッチの雰囲気がありました。もちろん美人ですが、ただキレイなだけでビッチにはなれない。ビッチの大姉御シモーヌ・シニョレをみてください。いわく言いがたいコテッとした重さがある。元祖ベティ・デイビスとなると若いときの彼女は、小柄で痩せていて、敏捷な美少年のような清々しさとともに、何にもたじろがぬ大胆不敵な視線を投げかけた。ジェマ・アータートンはどうか。本作では娘エレノアを連れて逃げ回る吸血鬼です。彼女は結核で死にかけ、吸血鬼同盟に加入を許されたものの(死を覚悟した者でないと入れない)メンバーは本来男性に限る。女は掟違反だが仕方なく入れてやる、しかし身分は最下層だと、テンから女をバカにしています。彼女は悪辣な士官に娼館に売り飛ばされ、娘を出産した。子供は生まれたらすぐ殺される運命なのだが、密かに子供を修道院の玄関に捨てる。「この子はエレノア。清らかな人生を与えてください。娘の命ある限り毎月金貨で養育費を払います。母は死んだと伝えてください」とメモを置き。16年後クララが迎えに来て二人は逃亡の旅にでる。何となればクララは娘を密かに絶海の孤島に連れて行き、男以外はご法度とされている「創生」を娘のために独断でやり、不死の体にしてしまったのである。だから同盟の刺客二人が、クララとエレノアを抹殺しようと付け回している▼クララはストリッパーや娼婦をしながら娘を養い、客の一人から昔ホテルだった下宿屋を引き継ぎ、売春宿「ビザンチウム」を開業して当分の母娘の落ち着き場所とします。エレノアも生き血を必要としますが、死にかけている人の枕元にのみ姿を現し「天使さん、来てくれたのね」と感謝されながらあの世に送るのである。ニール・ジョーダン監督といえば「ヴァンパイア・ウィズ・キッス」で吸血鬼映画の新局面を開いた人ですから、吸血鬼を扱ったらバリエーションは多彩です。本作ではハリウッドのネクスト・ブレイクと目されるシアーシャ・ローナンの、透き通るような美しさをスクリーンに焼き付けている。しかし映像美はさておき、ヒロインの一人としてのエレノアの造型はゆるい。吸血鬼である秘密を抱えたプレッシャーに耐え切れず、根ほり葉ほり聞きたがる恋人に、ペラペラと氏素性を明かしてしまう。こんなに口が軽いから女はバカにされるのよ▼クララは自分が娘に吸血鬼同盟の掟破りをしてまで与えた孤島の不死の奇蹟を、娘は白血病で余命いくばくもないから男に与えようと島に連れて行く。母親は自分の庇護から娘を解き放ち好きにしなさいという。娘は娘で生き延びればよい、ということにしたのでしょう。一言で言えば本作は、吸血鬼母娘が親離れ子離れする物語です。アータートンがシアーシャの妖精のような美しさに比べ、「娘のために稼ぐのが母の務めよ」ときっぱり、殺しであろうとストリッパーであろうとやってのける、重量感と生活感のある吸血鬼を演じました。