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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2018年2月2日

特集 LGBT―映画に見るゲイ233
ヴィオレット ある作家の肖像(中)(2015年 ゲイ映画)

監督 マルタン・プロヴォスト

出演 エマニュエル・ドゥボス/サンドリーヌ・キベルラン

シネマ365日 No.2379

「次を書き始めて」

特集 LGBT―映画に見るゲイ

ボーヴォワールとヴィオレットの会話は、作家同士がものを書く上の、作品を産み落とす上の、真剣勝負と同じ熱を放散しています。エマニュエル・ドゥボスもサンドリーヌ・キベルランも、ヴィオレットとボーヴォワールを演じるというより、彼女らの肉体を再現したといいたくなる、そんな力強さに満ちていました。ヴィオレットはボーヴォワールの「招かれた女」に感激し、彼女に自作を読んで欲しくてカフェで待ち伏せする。コンパクトの鏡に映ったボーヴォワールを確かめ、店を出て後をつけ自作を押し付けて帰ります。すぐ電報が来ました。「読了。明日朝9時にわが家へ。ボーヴォワール」。彼女は温かく招じ入れ「金持ち娘の退屈な思い出話と思ったら違ったわ。素晴らしい本よ。力強くて大胆で。長く書いているの?」ヴィオレットが男と別れたことを告げると、「いずれにせよ彼の部分は削除したほうがいいわ」バッサリ。「あなたの原稿をカミユ(編集者)に渡そうと思うの。急いで削除して。修正もいるわね。例えば父親のこと。私生児を産ませる卑怯な男よ。もっと掘り下げるの」▼「夫の前に数年女と暮らして失敗した。夫の子は中絶した。処置が難しくて死にかけた」とヴィオレットは身の上を話すようになった。「結婚は詐欺よ。大半の女にとって奴隷状態の始まりよ。経済的自立なしに自由はないわ。でもまだ遠い先の話ね」「初恋は女子校の寄宿舎でイザベルだった」「すべて語りなさい。生い立ち、恋愛、ことに中絶、女性たちのために。できるわ。私が味方よ」ボーヴォワールはこの約束を一生守ります。処女作「窒息」はパリの一流出版社「ガリマール」から出版されましたが注目を集めませんでした。自分は価値のない作家だとヴィオレットは落ち込む。「ずっと生きづらかった。これからも続く」「書くことで与えられるのよ。社会があなたに拒んできたものが。時間はかかるけど、書き続けて」「手を握ってくれたら」ボーヴォワールは「そうするわ。ずっと握り締めている」「愛している」これにはちょっと引いていましたけど▼ヴィオレットの愛慕は募るばかり。ボーヴォワールの帰宅を待ち伏せてドアのそばの階段に座っています。「なにしているの?」「私が醜いから愛せないの?」「外見は私には意味ないわ」でしょうね。サルトルの例もありますし。でもヴィオレットは「私の顔がきらいなんでしょ」「仕事が山ほどあるの。またにして」「どうしたら愛してくれる? 私は善良よ。とてもやさしくなれる」「泣き言は大キライ」「生活できない。お金が全くないの」「妄執に形を与えなさい。書くの。それが解決策よ」「誰も私に関心を持っていない」「自分のために書くの。『窒息』の次の作品を書くのよ。チャンスを生かして」こんなやりとりを聞いていると、ボーヴォワールは実に我慢強く、ヴィオレットに向き合っています。ヴィオレットは無理やりキスするが「やめて。出てって」と追い払われる。その夜ヴィオレットは次作に向かいます。「マダム(ボーヴォワール)が私を愛した。夢だとわかっていた。私の場所は私の内側。その他にはない。孤独よ、来い。長い髪を垂らして。マダム、あなたに私の心を。私は旅をする。私は移動する氷河」ボーヴォワールは夜中に飛び起きます。自分を抱きしめるヴィオレットの夢を見て。なんでしょう、これは。テレパシーでしょうか▼ヴィオレットの執筆が進む。ボーヴォワールが読ませてくれと頼んでも「完成するまでイヤ」と見せない。「頑固な人。私に見せたくないのね」「そうよ。あなたも自分のことを話さない」「今は女性の研究に没頭しているの。男は男であることで常に正しく、女は間違っているとされてきた。今度の私の本が社会にどう受け止められるか…」「タイトルは?」「まだ決めていないけど、多分『第二の性』よ。あなたは?」「決まってる。『飢えた女』よ」同著はボーヴォワールの力添えでガリマールから出版されることになった。同時にボーヴォワールの『第二の性』も発行された。ヴィオレットへ贈った本には「第二の性が第一の性だと証明したヴィオレットへ」と著者の献辞があった。サイコーよね。でも『飢えた女』は売れなかった。ドツボのヴィオレットにボーヴォワールが言う。「売れなかったのは私への愛を書いたせいじゃないの。本は存在する。すぐれた作品は読み継がれる。次を書き始めて」ボーヴォワールって、なんだか、目標は常に「次のヒット」というイチローみたいですね。