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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2018年2月7日

特集 LGBT―映画に見るゲイ238
ムーンライト(2017年 ゲイ映画)

監督 バリー・ジェンキンス

出演 トレヴァンズ・ローズ/マハーシャラ・アリ/ナオミ・ハリス

シネマ365日 No.2384

月だけの光

ゲイのシャロンは子供のときから「オカマ」と呼ばれてイジメにあっていた。マイアミの危険な地区で育つ。誰も住んでいない廃屋に隠れているところを麻薬の売人フアンが声をかけた。彼は口をきかず、上目遣いで怯えているシャロンに「メシを食いにいこう、うちへ来い、俺の彼女に会わせる」。テレサはやさしくシャロンに食事を与え、家に帰るのが嫌なら泊まってもいいという。フアンはシャロンを海に連れて行き、一緒に泳いで「自分の道は自分で決めろよ。周りに決めさせるな」と教える。母親はドラッグ依存症だ。体を売り、薬代を稼ぎ、シャロンからも小金を奪う。シャロンは高校生になったが相変わらずイジメにあっている。同級生のケヴィンに恋心を抱く。夜の海辺で二人だけのとき、ケヴィンとキスを交わした▼数を頼んだイジメ組は「イジメゲーム」と称して、特定の誰かを選び、特定の一人に殴らせる。選ばれたのはシャロンにケヴィンだ。もちろんシャロンが殴られる。「もう立ち上がるな、向かってくるな」というケヴィンの制止をきかず、何度も起き上がってボロボロになる。イジメ組の名を明かさず、シャロンは教室に侵入し、首領の同級生を椅子で殴り倒す。警察から少年院へ。十数年後、シャロンは売人となり、高級車を乗り回し、ハイソな生活をしていた。母親は施設にいて、仕事をしながら余生を送っている。久しぶりに会いに来た息子に、「私みたいにならないで。愛している、シャロン。本当だよ。私のことはいい、愛が必要なときに与えられなかったのだから。聞いている?」「ああ」「悪かったよ」「もういい、母さん」息子は母親を抱いて泣く。シャロンはケヴィンに会いに行った。会いたいと電話があったのだ。彼は刑務所でコックをやり、調理を覚え、出所後レストランでシェフをやっていた。結婚して娘がいる。離婚したが男女の仲を抜きに今は友達だと知らせた。ケヴィンはシャロンを見て驚く。「立派な金歯だな。高級車だし、何をしているんだ」売人だと聞いて無言。ケヴィンの家に行った。「俺には誰も触れていない。あれ以来」。ケヴィンはシャロンを抱き寄せる▼ゲイが社会を告発する映画でもない、差別を抗議するのでない、復讐するのでもない、嘆きすらない。ブルーとブラックの色調が黒人と月光を象徴する。うら寂しいかというとそうでもない。シャロンは自分の道を自分で決めたのだし、母親とも和解した。ケヴィンとも再会を果たしなんらかの形で愛は復活しそうだ。シャロンは売人の中で一目置かれ、それなりのポジションにいる。今は力も金もある。しかし全体をおおう、このやりきれなさはなんだ。ムーンライトとは、太陽とは違う世界なのだ。自分の道を選んだとはいえ、極度に限られた選択肢の中だ。黒人でゲイというマイノリティ、貧困という差別、社会のゴミだめのような環境に生まれ、それでも精一杯生きれば幸福があるとは、誰が誰に言うおめでたい言葉か。体を売る母親と、弱いものを踏みつけ搾取する黒人仲間。性的マイノリティを軽蔑する社会が、無理やり押しつける役割でしかシャロンは生きていけない。彼がいる場所には、月だけの光しかささない。目をつぶりたいような孤独と隔絶をスクリーンに摘出した監督は、私たちをぞっとさせる。宇宙規模でぞっとさせる。謝る母親に「もういいのだよ、母さん」そうつぶやく息子に涙が流れる。どんな人生もあっていい、なんてシャロンが自分で決めた、売人の人生しか選択肢がなかった悲劇の前には戯言(たわごと)でしかない。