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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2018年2月8日

特集 LGBT―映画に見るゲイ239
ヘドウィッグ・アンド・アングリーインチ(2002年 ゲイ映画)

監督 ジョン・キャメロン・ミッチェル
出演 ジョン・キャメロン・ミッチェル/ミリアム・ショア

シネマ365日 No.2385

いるべき場所・あるべき自分 

いいなと思ったところから書いていきますね。ヘドウィッグ(ジョン・キャメロン・ミッチェル)が歌うこの歌。「愛が生まれる前、人には3つの性があった。男と男が背中あわせ、その名は“太陽の子”。それと似た形の“地球の子”は、女と女が背中あわせ。そして“月の子”はフォーク・スプーン。太陽と地球、娘と息子の中間、私は自分の片割れを探したいの、それは男? 女? どんな姿形? 二人は抱き合い元に戻ろうとした、それがメイクラヴ」。文字で書いてもよく伝えられないけど、ヘドウィッグが歌うといいのよ。この映画は冴えないロック・シンガー、ヘドウィッグが自分の曲をパクって売り出したロック歌手、元恋人トミーをストーカーしながら、自分のありのままの姿を取り戻す物語です▼ケバケバのメークに衣装、トミーを訴えてやるとヘドウィッグは彼の巡業先を追って転々とする。東ドイツ生まれ。子供の頃から華やかなロックに憧れ、部屋の中でガンガン鳴らし、母親がやかましい叱るものだからオーブンに頭を突っ込んで聴いた。米兵の男性と結婚するため性転換手術を受け、失敗して「怒りの1インチ」が股間に残った。結婚して渡米したものの米兵に捨てられ、好きだったロックの道に入る。トミーと出会い恋に落ちるが、隠していた「1インチ」がバレ、恋人は去る。そればかりか、ヘドウィッグの作った曲で売り出し、今や人気絶頂。ヘドウィッグのバンドのメンバー、イツハクはヘドウィッグの現在の恋人だが、いつまでもトミーに悶えているヘドウィッグが腹立たしく痛ましい。才能がありながら…見かねて「新しい曲を作れ」と叱る。「トミーを育てたのは私よ。彼はロックの心なんか忘れてしまったけど」。ヘドウィッグの心の底を貫く痛みは消えない。ヘドウィッグはそれを歌う「手術は大失敗。守護天使が居眠りして、6インチから5インチ消えて残った1インチ。しがらみを断ち切って別人になろうとしたのに、残ったのさ、怒りの1インチ」▼「本日トミー・ノーシス来店」と大きな看板が出ている店の隣にヘドウィッグは出演する。マネージャーが「ストーカーでこっちが訴えられるからやめて」というが聞かない。「乳の出ないオッパイからあんたはビジネスを吸い取ったのよ、ショーという名前の」今やヘドウィッグは怨念に固まっている。ヘドウィッグのバンドは食うや食わずだ。「1セントもないわ」全員しょぼくれているところへイツハクが戻り「やったぜ。受かったんだ。レントのエンジェル役さ。止めても無駄だぜ。お前とは離婚だ。精神的虐待に性格の不一致。疲れたんだ。俺たち二人とも疲れたんだよ」。ヘドウィッグは街娼に立つ。リムジンが乗り付け中にはトミーがいた。トミーはヘドウィッグに謝罪し、二人の仲は元に戻るかと思った瞬間、車は衝突事故。二人の関係はスキャンダルとして、ヘドウィッグは不本意に名を売る▼バンドの「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」もそれなりに人気が出たが、トミーを追いかけることをやめないヘドウィッグは、ライブの最中、発作的にカツラをむしり取り、胸に入れたリンゴを投げ捨て、トミーのライブ会場に乗り込む。そこでトミーは、出会ったときのヘドウィッグの曲に、謝罪を込めて歌っていた。ヘドウィッグは心が鎮まり、自分のバンドに戻るとカツラも衣装もつけずに歌い、歌い終わると全裸のまま街の闇に歩き去る。ここでエンドだ。幸福になるとも不幸になるともわからないけど、ヘドウィッグはありのままに「1インチ」を受け入れて生きていこうとしている。よかったじゃない。難しいテーマを抱えているけど、後味は爽やかよ。日本では中村中がイツハクを演じました。中島みゆきの夜会「橋の下のアルカディア」を本欄で書いたとき、彼女のトランスのことは知らなかったけど「中村中が素晴らしい」と書いたのを思い出したわ。本作のイツハクを演じたのは女優のミリアム・ショア。ジョン・キャメロン・ミッチェル脚本・監督の「ショートバス」にも出演。同じく彼の監督でニコール・キッドマン主演の「ラビット・ホール」もよかったですよ。どれもみな登場人物たちは繊細で問題意識を抱え、ぶつかり、苦しみながら自分のいるべき場所を見出そうとしています。