女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集 LGBTー映画にみるゲイ

2018年2月11日

特集 LGBT―映画に見るゲイ242
静かなる情熱 エミリ・ディキンスン(上)(2017年 ゲイ映画)

Pocket
LINEで送る

監督 テレンス・デイビス

出演 シンシア・ニクソン/ジェニファー・イーリー/ジョディ・メイ

シネマ365日 No.2388

剥奪された愛 

静かなる情熱 エミリ・ディキンスン(上)(2017年 ゲイ映画)

生前活字になった詩は10編、無名のまま生涯を終え、死後タンスから発見されたエミリ・ディキンスン(1830—1886)の詩は1800編。生前の彼女を知る関係者たちは、ディキンスン(シンシア・ニクソン)の詩の多くを修正して発表した。オリジナルの形で全貌が明らかになったのは1955年、彼女の死から69年後だ。官能的な詩はすべて「修正」の対象になった。彼女は一生独身だった。変わり者といわれたが、詩を見る限りやはりフツーの男性を愛する異性愛者だ、つまりノーマルなセクシュアリティなのだとされてきた。しかし女友だちに当てた手紙や詩には、細やかな愛情が吐露され、映画はわずかなシーンではあるが、兄の妻スーザン(ジョディ・メイ)との会話に、マイノリティの性向を明確に述べる場面がある▼確かにメアリが極端に閉鎖的な生活者だったことは確かだ。「結婚は?」と尋ねられると「家族と離れ、知らない人に囲まれている自分が想像できない」と答え、友人から「あなたは不思議な生き物ね。周りの誰よりも深みがある」「深みなんて見せていないわ」。友人は「見せるものじゃない、表れるものなの」という。妹のヴィニー(ジェニファー・イーリー)は、屋敷内を一歩も出ず、近所から「尼さん」と呼ばれる姉のよき理解者だった。炊事や家事洗濯掃除一切を受け持ち、姉が詩作に没頭できる環境を整えた。メアリの生活は規則正しく、真夜中3時に起きて朝までを詩作に宛てた。暗いうちに起きるメアリの部屋を、ある夜スーザンが訪う。「こんな時間に何を?」「ものを書く時間なの。最高の時間よ。世界中が眠っているように思えて」スーザンは美しい女性だった。メアリは訊く「なぜ結婚を決めるまで長くかかったの?」「正直言うと男性のある面を考えると身がすくんで。だけどオースティン(夫、メアリの兄)はとてもやさしくて、私が拒んでもわかってくれるの」▼メアリ「結婚生活のその部分はそんなに苦痛?」「義務は果たすわ。わたしは夫を得ただけじゃない、姉妹もふたりできた。どんな本もふたりで読める。ブロンテも、オースティンもギャスケル夫人も。あなたには詩がある」「詩は日課なの。救いようのない者への神の唯一の救いよ」「他に慰めはないの?」メアリの答えは「私たちのようにささやかに生きる者は剥奪されているの。ある特定の愛をね。でも飢え方は心得ている。まず自分を騙し、次に他人を。最悪のウソよ」。この部分をレスビアン・ゲイ的文脈で読んでみるとメアリの位置は明らかです。スーザンに当てた熱烈な手紙がありますが、きっちりこれも「修正」されました。メアリの詩は今でこそアメリカの軌跡と呼ばれますが、当時彼女の詩を読んだ編集者は「残念だがどの言語でも有名な文学は男の作品だ。女には不朽の名作など書けない」と言っています。今ならこいつ、殺されているわ。

Pocket
LINEで送る