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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2018年2月12日

特集 LGBT―映画に見るゲイ243
静かなる情熱 エミリ・ディキンスン(下)(2017年 ゲイ映画)

監督 テレンス・デイビス

出演 シンシア・ニクソン/ジェニファー・イーリー/ジョディ・メイ

シネマ365日 No.2389

歌いなさい、わが魂

静かなる情熱 エミリ・ディキンスン(上)(2017年 ゲイ映画)

内省的で人前に出るのが苦手でしたが、日常のメアリは、広い庭の花壇の手入れをし、花を栽培し、寝たきりの母親を介護し、彼女の焼くパンは品評会で入賞する腕であり、メアリ自身「ちょっとしたものね」と自慢でした。彼女は教会にもいかず、結婚もせず家に家族といることを選んだ。妹に言います「家族とは完璧ではないにしても、これ以上の場所はありえない。望みもしない。私に結婚は無理よ。あなたと兄さんは美形だけれど、私は家の中のカンガルーよ」。しかしながら、彼女の「家にいるだけで充分」という選択には全然消極的なニュアンスはありません。むしろ気の乗らない付き合いや社交に時間を取られたくない、積極的自己隔離だと思えるのです。だいいちメアリは気性の激しい女性で、その気になればどんな相手でも妥協しませんでした▼妹が引きこもっている姉を外に出そうとボーイフレンド、エモンズを紹介する。「あの美青年は姉さんの詩に憧れているのよ」。エモンズはにこやかに「出かけませんか?」メアリはにべもなく「父の土地から出ないことにしているの」妹はハラハラ。「こんないい天気なのに?」「私が出かけなくても天気は同じよ」剣もホロロの対応にエモンズは退却します。「辛辣すぎるわ。世間に対して姉さんは怒りで身を守っている」「あなたは私を見捨てないの。ヴィニー?」「愛さずにはいられない人だから。気性は激しいけれど、姉さんは誇るべき魂があるわ」。妹のいうとおり、メアリとは類まれな心の綺麗な人です。純な女性です。兄がハデ好きなトッド夫人との浮気の現場を見たときは頭にくる。それでなくともメアリは義姉の味方です。翌朝「トッド夫人がお発ちよ」と告げに来た妹に「この世から? うちから? トッド夫人、出口なら右です。稀に見る我慢強いご主人によろしく」兄は憤然と「次から来客への挨拶は手旗信号にしてくれ」▼メアリには持病がありました。時々手足がむくみ、腰痛が襲い、激しい痙攣を起こします。医師の診断はブライト病で、治療の方法はありませんでした。「治らないのね」それだけ言ってメアリは普段の生活に戻ります。整頓された部屋、窓からさす光、可愛らしい鉢植え。小さな書き物机。彼女の詩のほとんどがこの机で書かれました。朝の3時から夜明けまでの時間に。アメリカの詩人かつ批評家のアドリエンヌ・リッチは「家庭の中のヴェスヴィウス山」というエッセーで「天才は自らを知っている。彼女は自分が例外的なのを知り、自分が何を必要としているかを知っていて隔離を選択したのだ」。極端な外出嫌い、社交嫌いは限りある時間の中で、彼女の条件に合うように明晰な意思の元になされたマネジメントだった。「自分の天分を使うべきところに使い、選択を行ってきた実際的な女性」だったと、メアリの自己管理と集中力を評価しています▼メアリとは女性の天才が発狂しかねなかった抑圧と無理解の時代に、詩を書くことで生き延び、内面のエネルギーを爆発させた女性でした。こんな作品があります。

 最初の日の夜が来たー

 そしてかくもおそろしいことに

 耐えきれたのを感謝しつつー

 わたしは魂に歌いなさいと言ったー