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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2018年2月26日

特集 LGBT―映画に見るゲイ257
青い棘(2005年 ゲイ映画)

監督 アヒム・フォン・ボリエス

出演 アウグスト・ディール/ダニエル・ブリュール/アンナ・マリア・ミューエ

シネマ365日 No.2403

俗人はつぶやく…

特集 LGBT―映画に見るゲイ

事実に基づく作品です。美しいけれど痛い映画です。冒頭、男子高校生ふたりの遺書で始まります。「我々パウル・クランツとギュンター・シェーラーはここに記す。我々が愛し、その愛を裏切った者たちに今夜復讐する。それだけだ。復讐したら微笑みながらこの世を去ろう」。青春とは観念の劇という一面を持っています。実人生に踏み込んでいない青年たちが頭の中で作りあげた現実を生きる。彼らの愛はまだ正体を、といって悪ければ、真実の姿を見せていない。愛とは裏切りや喪失や、絶望こみで人を肥沃にしていく日常次元のものだと彼らは思えない。さんざん浮世に揉まれてきた男や女にすれば、「あんたら、これからもっとえげつない目にあうのが人生よ」と言いたくなろう▼ギュンター(アウグスト・ディール)は美しい透明感のある美青年です。親友のパウル(ダニエル・ブリュール)と親の別荘に週末を過ごすために来た。ギュンターの家はお金持ちである。1920年代といえば第一次世界大戦でドイツが負け、欧州列強の賠償金分捕り合戦によって、完膚なきまでに叩きのめされ、国民は屈辱にまみれていた。多感なギュンターの世代は信じるに足る精神的な支柱もなく、経済はドン底、将来への不安と社会の混乱をもろに感じていた。自殺者が増えた。そういう時代背景を思えば、彼らの使う復讐とか裏切りという言葉が、より殺伐と響く。パウルは別荘でギュンターの妹アンナに一目惚れする。アンナは肉感的で「一人の男では満足できない」と広言する恋多き女。ギュンターとの間にも濃い愛情がある。アンナが付き合っているレストランのコックがハンス。ギュンターの元恋人。ハンスが妹に走り傷心したギュンターはハンスを憎むものの憎みきれていない。一方でパウルとの友情にも友情だけですまない感情の結びつきがある。何しろ一緒に心中しようという相手ですからね。この4人が別荘で鉢合わせする。同時にギュンターの友人たち多数が招かれパーティで浮かれている▼ギュンターとパウルが作った「自殺クラブ」の条項はこうだ。「自殺クラブの名称はフェオ(完璧な死)とする。我々が死ぬ理由は愛のみ。我々が殺す理由も愛のみ。だから我々は愛が消えた瞬間に死を選び、愛を奪った者を道連れにすると誓う」。ギュンターとハンスは地下のワイン倉庫で愛を復活させる。「僕はハンスと出直す」とパウルに告げる。パウルは彼のことを好きなエリと初体験をした。裏切りだ、復讐だのが空疎になった。「僕は帰るよ、家に」とギュンターに告げる。ギュンターはしかしハンスが自分を裏切り妹と寝た。妹の寝室に来たギュンターはカーテンの陰にいたハンスを撃ち殺し、その場で自分の頭を撃ち抜く▼ギュンターの一途さが痛ましいとしかいいようがない。彼らの別荘の周辺の広大な畑。一直線に続く道。真っ青な空の下で、黄色い麦穂の中を歩く青年がふたり。こんな絵のような、心安らぐ自然の中でなぜ死は取り憑きに来たのだろう。ギュンターは「真の幸せが訪れるのはおそらく一生に一度だけだ。そのあとは幸福の瞬間を忘れられない罰が待っている。その時が来たら人生に別れを告げるんだ。一番美しいときに」…それにしても死なんでもええやろ。俗人はそう呟くしかない。