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特集「春が来た、3月のベストコレクション」

2018年3月5日

特集「春が来た、3月のベストコレクション」⑤
シークレット・パーティ(2013年 劇場未公開)

監督 マーク・L・マン

出演 キアヌ・リーブス/ボヤナ・ノヴァコヴィッチ/アデレイド・クレメンス

シネマ365日 No.2409

だれかの声 

特集「春が来た、3月のベストコレクション」①

 日本で劇場未公開だし、評判にもならなかったし、キアヌは極限のヘタレ男だったけれど、滋味があっていい映画です。登場人物はほぼ3人。コールガールが二人、神経症を患うウツの男が一人。これで察しがつく内容でしょう。監督は奇をてらわず、寂しさや孤独や、エログロを売り物にせず、落ち着いて中身を掘り下げています。ジョン(キアヌ・リーブス)はコールガールのヴァイオレット(ボヤナ・ノヴァコヴィッチ)とミア(アデレイド・クレメンス)の運転手。運転中でもボロクソに言われ、首や耳を舐められ、女たちの勝手放題な挑発にも、迷惑そうだが声も荒らげず目的地に送り届ける。彼女らはこれからお仕事である。ミアはヴァイオレットのルームメイトだ。仕事から帰ると女たちは服を脱ぎ散らかし、野放図にベッドへ。狭い部屋は豚小屋のごとく散らかっている▼ジョンに母親から「誕生日おめでとう」のメッセージと75ドルの小切手が届く。「薬代の足しにしておくれ」と添え書きがある。ジョンの食事は貧しい。カップケーキをガツガツ食う。キアヌが削げたヒゲだらけの頬を盛んに動かし、パリパリとカップを食い剥がす音がする。ヒゲや口元についた白いクリームを忙しく拭う。監督は執拗にこの、わき目も振らず食べるキアヌをアップで映す。狙いは一心不乱に食べるキアヌの、忘我の満足度だ。どことなくそこには幸福感が伝わってくるのだ。レストランでもせっかくジョンに好意を持っているウェイトレスが、彼の好みのメニューを運んできてくれるのに、口説こうともしない。カチカチとナイフとフォークを鳴らしながら無言で食べる。友達が来て、彼女を放っておくのか、とお節介を焼く。ジョンの部屋にはリッキーという従弟が居候している。ジョンは公園でビデオカメラを盗む。持ち歩いて撮影しているうちに、ミアとヴァイオレットを撮るようになる。彼女らはだんだん打ち解け身の上話をする。ミアは母親と縁の薄い子供だった。ヴァイオレットはざっと200人の男と3人の女と寝たが、いちばんいいのは謙虚な男だという。ジョンが男の名を聞くと何が辛かったのか、ヴァイオレットは泣く。ジョンはやさしく抱きしめる。「このテープは永遠に残るわよ」とヴァイオレットは嬉しそうだ。大根女優として、と付け加える。引きこもりの男が盗んだカメラで撮ったコールガールたち。ヴァイオレットの芯から嬉しそうな笑顔が切なくなる。彼女らはジョンの運転で仕事に行く。大勢の男たちがいるホテルの一室。ミアとヴァイオレットは絡み合ったり、男のものを加えたり、ミアはファックさせ、あえいでいる男に別料金だと覚めて請求する▼ジョンが迎えに来た。女たちはほとんど喋らず目を合わさず遠くを見ている。「何か食わないか」とジョンが声をかける。ヴァイオレットがバーに行くまでに店があればと答える。ジョンは「俺のうちに行こう。料理を作らせるよ」。リックが手料理でもてなす。古い通信簿があって、ジョンはオールAの秀才だったとわかる。リックも仲間に入り、笑い声のはずむ楽しい時間が流れた▼人はみな、前向きで明るく元気でポジティブでなければいけないのか。社会からはじき出された者はダメ人間か。落ちこぼれて独善的で閉鎖的になってしまった人間は無価値なのか。安らぎを得る場所と感じ方はみな違っていていいだろう。ジョンやヴァイオレットやミアや、リッキーだって真夜中のような未来に置き去りにされている自分を知っている。でも今夜のように笑い声が響くひとときがある。一滴の蜜のような心の滴りがある。生きていさえすればいいのだと、いってくれている誰かの声を、彼らは聞いたろうか。キアヌ・リーブス好演です。