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特集「春が来た、3月のベストコレクション」

2018年3月8日

特集「春が来た、3月のベストコレクション」⑧
ミッション・ワイルド(下)(2017年 社会派映画)

監督 トミー・リー・ジョーンズ

出演 トミー・リー・ジョーンズ/ヒラリー・スワンク/メリル・ストリープ

シネマ365日 No.2412

メアリへの哀惜

メアリの結婚観には、男が家にいるのは家具をそろえる一部とでもいう冷静さがある。子豚を飼うのやカボチャを試みるのと同じ程度だろう。男はメアリが恋にのぼせず、男を崇めもせず、従順でもなく、農作に長じ知識もある自分より頭のいい女だとわかっている。本当に強い男ならメアリを好もしく思うだろうが、田舎の狭い男社会で羊と女相手に威張ってきた男たちには難しい。ブリックスだけはメアリの力量を認め、メアリもまた彼を、国土横断にふさわしい相棒と信頼するが、いかんせんブルックスは結婚逃避の男だ。いきなりメアリが自殺したのには、キツネにつままれたようだった。なぜ。死ぬほどの絶望があったからだ。でもなぜ▼当時(インディアンが襲撃する時代)の社会で、女が一人で生きるモデルがなかったこともあろう。自立する職業が片田舎にあるはずがない。メアリは結婚を、唯一自分が手の打てる、妥協できる居場所とみなしたにちがいない。彼女の結婚の申し込みはビジネスに等しく、税理士が資産を読み上げているように冷静だった。メアリはつまるところ自分の居場所を見いだせなかったのだ。清潔な家、贅沢はできなくとも堅実な資産、育て上げた家畜、自分の土地。これだけあれば充分一人でも生きていけたのに、後一点、最後のピースとして男が必要だったのか▼ブリックスは自殺を選んだメアリを悲しむ。彼は頭の中の進んだ男だった。そんなバカなこと、する必要がなかったのにと、今の私たちと同じ悲しみを感じる。気がふれた女たち3人に八つ当たりする。「お前らのせいだ。お前らさえいなけりゃメアリは生きていた。お前たちが気を強く持って頭がおかしくならないでいれば、彼女は自分の家で暮らせた。お前たちは自分で元の暮らしを捨てたのだから自業自得なのに、メアリを巻き込んだのだ!」▼無事女たちを送り届けたブリックスは、ホテルで働く若いメイドに話しかける。「西部で一攫千金を狙うような男ではなく、地元の男と結婚してこの土地にとどまったほうがいい」。彼は町の葬儀屋でメアリの墓標を作ってもらう。「メアリ・ビー・カディ。神に愛され御元に呼ばれた女性」と記してある。「メアリってだれ?」「だれよりも素晴らしい女性だった。君が生きて息をし続ける限り、カディも生き続けるのさ」。ブリックスがメアリを未来のあるべき女性像として捉えているのがわかります。時代に早すぎたメアリという女性への弔辞でもあります▼メリル・ストリープが最後のほうでチョコっと顔を出します。移送先の牧師の奥さんです。ほころびを見せない笑顔でブリックを迎える。メリルでなくともいい役ですが「31年目の夫婦ゲンカ」で共演したトミー・リー・ジョーンズへの友情出演でしょうか。大きな「なぜ」を感じさせながら、酔っ払いが川に蹴落としたメアリの墓標、それにも気づかなかったブリックの一人踊り、川面に響くやるせないバンジョーの響きで映画は幕を閉じます。人生は虚無だ、おめでたいラブロマンスなんか俺は作りたくない、トミー・リー・ジョーンズ監督のそんな捉え方がよくわかる作品でした。