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特集「春が来た、3月のベストコレクション」

2018年3月19日

特集「春が来た、3月のベストコレクション」⑲
聖杯たちの騎士(2016年 恋愛映画)

監督 テレンス・マリック

出演 クリスチャン・ベイル/ケイト・ブランシェット/ナタリー・ポートマン

シネマ365日 No.2423

かの人をわれに語れ

一人のヘタレ男に美女6人がせっせと世話を焼いて立ち直らせる、こんなバカバカしい話があるだろうか。テレンス・マリック監督は作家として素晴らしいと思うけど、映画には「おバカ映画だけど傑作」「シリアスだけどノー・サンキュー」の二種類があるとすれば、本作は後者よ。監督は本作の後「ボヤージュ・オブ・タイム」で、地球誕生から現代に至る壮大な叙事詩を映像にした。すンごいスケールに驚倒したけど寝落ち寸前だった。この作品ではクリスチャン・ベイルがウダウダ愚痴をこぼすシーンになると閉口した。ケイト・ブランシェットの映画で早送りしたのは初めてだ。ケイトは「キャロル」以後失速、とは言わないまでも低調が免れないと思う。本作の女医さんの役なんて、笑いたくなるほど凡庸だった。女優に限らないけど「この役こそ私」と打ち込める仕事って、滅多に出会わないものなのね▼主人公リックの人物を、クリスチャン・ベイルがまとめているからパクルことにする。「彼は成功を収めた男で夢や望みをある程度叶えている。成功を手にしたはずだが、ふと気づいたら彼の人生は目的地もなく、同じ場所で空回りしている車輪だった。行くあてなどない、身動きが取れない。そこで旅に出る。置き忘れた何かを探す旅だ。偽りのない、生々しい本質的な望みだ。それを見つけることで心の空白を埋めることができるかもしれない。ところが旅の過程はパーティ三昧で、何を祝っているのかさえわからない」という頼りない話。彼を取り巻く女性たちのひとりが元妻だ。これがケイト。彼女は「あなたは結婚の枠に収まりたくなかった。誓いの言葉は誠実だったわ。でも心からの言葉じゃなかった」。リックは「人生が怖かった。誰が代償を払うのか。君に払わせてしまった」。彼女はリックと別れたらしい。「あなたは変わった。世界に呑み込まれた。こうなって残念よ。あなたと別れてひとりはいやだった。昔は幸せだったわね。今は違う。何があったの? あなたを幸せにしたかったのに、あなたは私に苛立ち始めた。些細なことで。昔より私に冷たくなったわ。残酷なほど。別れると脅さないで。好きにしていいから。行って。子供ができず後悔している? 私はしている」「君は平穏をくれた。慈悲と喜びを。僕といてくれ、ずっと」「あなたを今も愛している。言わなきゃわからない?」…好きなように言ってりゃいいだろ。セリフはほとんどナレーションである。つまり、独り言なのだ▼リックはプロデューサーが回してきた仕事を受ける様子もなく終始悶々としている。ロスの路上に倒れているホームレスに自分の未来を投影する。ナタリー・ポートマンが最後に現れる。子供が家で遊んでいるシーンがあった。リックと一緒になって子供を産んだってこと? 主人公が何を選択しようといいけど、マリック監督への感謝だけは述べたい。彼は「瞑想・静寂・簡潔」という日本文化の本質を、美しい庭園美で表していました。ほとんどのハリウッド人が「ゲイシャ・トーキョー」の域から出ない中で、学究肌の監督の、理解と品格が嬉しかった。でも彼の哲学は哲学として、もっと「物語ること」を信頼すべきだわ。せめて「ツリー・オブ・ライフ」くらいには。「人生も現実も断片でなければ捉えられない」と主張している、あの偏屈なミヒャエル・ハネケでさえ、「ピアニスト」あたりから物語性に回帰しているじゃないですか。人間の神への願いは「かの人をわれに語れ、ムーサよ」(「オデッセイ」)でした。ムーサとは詩の女神です。物語ることへの憧憬は人間の本能とも言えます。その力強さをマリック監督の映画で再確認したっていいと思う。