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特集「春が来た、3月のベストコレクション」

2018年3月20日

特集「春が来た、3月のベストコレクション」⑳
パーソナル・ショッパー(2017年 ホラー映画)

監督 オリヴィエ・アサイヤス

出演 クリステン・スチュワート

シネマ365日 No.2424

肩越しの気配

ヒロイン、モウリーン(クリステン・スチュワート)は、パリでセレブのショッパーをしている。3カ月前にパリで死んだ双子の兄ルイスの霊の返信を待つためだ。兄妹は仲がよく「先に死んだほうがサインを送る」と誓い合った。兄妹は霊媒師で普通の人より霊を強く感じる。モウリーンの喪失感は深く、空き家となった兄の家(ゴシックふうの豪邸)に一人来て暗闇で兄の霊に話しかける。サインはあった。ますますモウリーンは兄の存在を信じる。モウリーンの雇用主であるキーラが殺された。犯人は彼女の男友達のインゴだった。彼はモウリーンのケータイに「お前を知っている」とメールを送って来て、モウリーンはもしかして兄ではないかと混乱し返信する。「あんた誰? 実在するの、生きているの、死んでいるの?」「正体を知りたくないか。すぐそばで見ているぞ」。落ち着いて考えればストーカーの変態男なのに、モウリーンは判断力をなくし、メールのやりとりにのめり込み、パーソナル・ショッパーの、やってはいけないこと、雇用主の衣装を密かに着用することまでする▼散々振り回された挙句、犯人がインゴだとわかり、嫌気がさしたモウリーンは、パリを離れ恋人のいる田舎に行く。恋人は留守で、誰もいない部屋でモウリーンは兄の気配を感じる。いくつか質問する。イエスなら1回音を立てる。ノーなら2回。「すべて私の気のせい?」ガタン。つまりこの映画はヒロインの「すべて気のせい」を延々と見せる映画なのだ。モウリーンもいつまでも兄の死にとらわれるのではなく、いつか乗り越えなければならないと内心思っている。だから納得できる形で、死を受け入れたかった…要はそれだけよ。言ってしまえば全く屁みたいな映画なのです。それを意味ありげにしているのは、監督の「肩越しの気配」あるいは「肩越しの視線」を視覚化する映画術です。自然光のみの暗い部屋をモウリーンがあたりに気をくばりながら階段を登り、ドアを開け(古くてなかなか開かない)、耳を澄まし、観客を霊の存在に引き込んでいく。見えないものが人の心を支配する、という世界観は、オリヴィエ・アサイヤス監督の「スピリチュアルとリアリティ」をつなぐ一大テーマです。「アクトレス」における「マローヤの蛇」。「夏時間の庭」における家そのもの…▼とにかくモウリーンは兄の呪縛、というより、寂しさのあまり兄に執着する自己呪縛から解かれたらいいのよ。自分でも兄の死が納得できたら新しい人生を始められる、と言っているのだから。死んだ人に会いたいという気持ちはわかる気もするが、こういうとき日本では「来世があるさ」で決着をつける。魂の救済はそれぞれが自分なりに持っていていいことだわ▼クリステンはいい監督と共演者で作品を選んでいますね。作品のチョイスのうまい女優です。「ビリー・リンの永遠の一日」はアン・リー監督、「アクトレス」はアサイヤス監督もさることながら共演がジュリエット・ビノシュ、「アリスのままで」はジュリアン・ムーア、「ライフ・ゴーズ・オン」は女性監督のケリー・ライヒャルと、共演はミシェル・ウィリアムズ、「レディ・ソルジャー」も劇場未公開でしたが完成度の高い作品でした。自分でも気に入っていると言っていたのは「ランナウェイズ」でした。MTVムービー・アワードの「キス・シーン賞」にダコタ・ファニングとのそれがノミネートされています。