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特集「ディーバ16」

2018年4月2日

特集「ディーバ16」イザベル・ユペール②
エルELLE(下)(2017年 サスペンス映画)

監督 ポール・バーホーベン

出演 イザベル・ユペール

シネマ365日 No.2437

ミシェルとイザベル

特集「ディーバ16」イザベル・ユペール

ミシェルはレイプの後遺症を心配する元夫や親友に「犯人は異常よ。そういう男は任せて」微笑とともにいう。それにしてもミシェルの身辺にいる男たちは恋愛トラブルが絶えない。パートナーとの関係は見事に破局する。まるでミシェルのそばにいるとこうなると、監督は暗示をかけているようだ。元夫の現在の恋人は大学院生のエレーヌ。「どんな子?」と特別な感情を見せずミシェルが訊き「商売女ならいいけど、『第二の性』を読むような女だと丸呑みされるわよ」と忠告。案の定エレーヌは去る。息子が結婚したジョシーは「ベッドだけが上手」。産まれた子は肌の色が違い息子のDNAでないのだけは確か。女は家賃を払ってもらえるミシェルの収入が目当てで、分不相応な贅沢なアパートに入居する。自分をこき下ろすミシェルと不倶戴天の敵で息子に向かって「一体いつになったら母親にケツをまくるの!」と怒鳴るミシェルも会社の幹部ロバールと不倫、彼の妻は親友アンナだ。「数ヶ月だけの関係よ。気づかなかったでしょ」そういう問題ではないでしょ。ミシェルとアンナは同じ産院で出産し、アンナは死産だった。アンナは会社でミシェルの右腕となった。犯人はあっけなくわかる。再度押し込みに来た犯人に反撃したミシェルがスキー帽をむしり取ると、隣のレベッカの夫パトリックだった。ミシェルは警察に突き出しもせず、関係を続け、ある日「私たちの関係は異常よ。あなたはやめる気がない。奥さん、私、今まで何人に同じことをした? 警察に言うわ」。男はミシェルを襲うが、入ってきた息子が男の脳天を一撃し、男は死んでしまった。妻は引っ越すときにミシェルにいう。「パトリックはいい人だけど心を病んでいた。ミシェル、短い間でも彼に応えてくれて感謝しているわ」。ミシェルとは天使なのか悪女なのか。寛容なのか狭量なのか。状況と共に変化するいくつもの「素顔」を淡々とイザベル・ユペールが演じ分けます▼父親が獄中で自殺した。ミシェルが母親の懇願に負け面会に行く日だった。父は何時に首をつったのか訊くと、ミシェルが面会に行く時刻の直前だった。父は父で会いたくなかった、または会うことができなかったのだ。両親の墓の前にミシェルが来ている。息子夫婦も来た。ジョシーは息子の元に戻って来た。息子は自分の子ではないとわかっても子供のためにジョシーと一緒の人生を選んだ。アンナが来る。ミシェルと二人だけだ。「ロベールは?」とミシェル。「追い出したわ。彼をどう思っていたの」「たまたま寝たかっただけ」「そんなの言い訳にもならない。ヴァンサン(息子)も大人ね。また二人ね、ミシェル」「今の家は広すぎる。売るつもりよ」「しばらく一緒に住んでもいい」。実はこの二人「前にも試したわね、ベッドで」「でもできなかった」という関係である。今度はできるのかい(笑)▼ミシェルの水面下には何人のミシェルがいるのか。パトリシア・ハイスミスは「水の底」という小説で、状況によってカメレオンのように変容することが、彼にとっては最も自然である多面的・重層的な主人公を描いています。ポール・バーホーベンは本作で、幾人もの自分にやすやすと変異する主人公ミシェルを造形しました。彼は著名なハリウッド女優の数人にオファを出しましたが、みな引いてしまった。「アメリカ人はこういう人格をやりたがらない」と不満気でした。難役中の難役です。人間であれば誰しもの潜在意識の下で、無意識にうごめく「彼女」という存在に「ミシェル」という肉体を持たせることができたのが、イザベル・ユペールという女優だったのです。