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特集「ディーバ(大女優)」

2018年4月5日

特集「ディーバ16」イザベル・ユペール⑤
3人のアンヌ(2013年 恋愛映画)

監督 ホン・サンス

出演 イザベル・ユペール

シネマ365日 No.2440

風のようなイザベル

特集「ディーバ16」イザベル・ユペール

イザベル・ユペールが終始得体の知れぬ3人のアンヌを演じます。舞台は韓国の海岸の田舎町。最初に登場するのは「青いシャツ」のアンヌ。つぎは「赤いワンピース」のアンヌ。3人目が「緑のワンピース」のアンヌ。青いアンヌは成功した映画監督だ。民宿みたいなホテルに投宿した。部屋からみえる風景はさびれた人影もない浜辺と灰色の海だ。アンヌを迎えた男は映画監督らしいが、やたらとアンヌにキスしたがる。会話は英語に韓国語によくわからないがフランス語もまじっている。アンヌが散歩にでようとすると小雨が降ってきて、民宿の少女が青い傘をかしてくれる。海はとても寒そうなのだが、泳いでいる男がいて、浜にあがってきたところをみると筋骨たくましい青年である。この筋肉男はライフガードだ。浜辺の警備員であるが、警備するほど人は泳いでいない。アンヌの民宿ではその夜焼き肉パーティが開かれている。ライフガードがやってきてアンヌに親しげに話しかけると男の監督が腹をたて追い払う▼赤いアンヌは不倫中の男をホテルで待っているが男は予定がどうとかこうとか電話ばかりかけてきて一向にやってこない。アンヌは男が来る幻までみる。「緑のアンヌ」は離婚したばかりで、女友だちの民俗学者を訪ねてやってきた。傷心のアンヌはお坊さまに会いたいといい、女史は知り合いの僧の寺に連れて行く。禅問答のようなやりとりがあるが、なにを意味するのかよくわからない。三話に共通して用いられるキーワードがライトハウス(灯台)だ。アンナは灯台がどこにあるかとライフガードにきくが、彼はみたこともないと答える。二話目ではライトハウスが現れるがたぶん幻想である。たぶんというのはどっちでも大局に関係なさそうだからだ。三話でもアンヌは灯台を探しているがだれもしらない▼アンヌは焼酎が大好きで、バーベキューをしながら飲むし、海岸では男と交代にラッパ飲みするし、ライフガードの黄色のテントにいっしょに入って、当然コトに及ぶと考えられるが、すごいイビキでアンヌが閉口していたところを見ると実態はわからない。男は単に酔いつぶれたのかもしれない。なにしろテントの外には4本か5本の焼酎の瓶が放り出されている。おまけにこのテントを張った場所は、大きな公衆トイレの前なのである。普通の神経ではその気になりませんでしょうね。書くのさえ退屈な男ばかり登場する。民俗学者の友人である僧侶は、アタマか尻尾か、どっちともとれるいい加減なことを言うし、物欲しげにアンヌをみる亭主の視線にお腹の大きな妻は怒る。赤いアンヌの不倫相手は、ホームレスのテントからいま這い出てきたばかりのような中年男だ。なにが物好きだといって、こんな男と不倫せねばならないのだろう▼執着するものがアンヌにはない。出会う男たちはギターも弾き焼き肉も焼いてくれ、焼酎もいっしょに飲み、やさしくはあるが限りなくたよりない。しかもここは異郷。アンヌの人生のイカリを下ろす場所ではない。彼女が探す灯台はどこにもない。思えば「異郷と灯台」はイザベル・ユペールの映画の背骨となってよく現れる。精神的な異郷にいて、自分という灯台を探す。イザベルとは仕事であればどこにでも単身入っていく人です。ドイツ人ばかりの中のフランス人、ロシア人ばかりの中でフランス語のセリフとか。ここ韓国でも風のようにひょうひょうと演じています。ゴシップがたえてなく、私生活を話したがらない。唯一、娘が3人いてひとりは女優デビューしました。故クロード・シャブロルが、今はミヒャエル・ハネケが「主役はイザベル」という条件で監督を引き受ける女優です。