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特集「ディーバ(大女優)」

2018年4月7日

特集「ディーバ16」イザベル・ユペール⑦
眠れる美女(2013年 事実に基づく映画)

監督 マルコ・ベロッキオ

出演 イザベル・ユペール/トニ・セルヴィッロ/アルバ・ロルヴァケル

シネマ365日 No.2442

納得する愛のあり方 

ディーバ16

尊厳死がテーマです。20081113日、17年間植物状態だったエルアーナ・エングローラの延命治療を停止する許可が政府機関から降りた。賛否両論が対立する渦中で三つの物語「不治の病の妻と政治家の夫」「自殺願望の女と医師」「娘のためにキャリアを棄てた女優」が展開する。イザベル・ユペールは娘の看護を続ける元女優ディビナを演じます。筋書きや感想をどうこう書く前に、自分が直面したらどうするか、を考えないと空論になってしまいそうです。自分が植物状態になったときは延命したくないですが、もし母が、父が、娘だったらと思うと、たぶんできないでしょう。そばにいて話しかけ、伸びてくる爪を切り、髪を整髪してくれと頼むでしょう▼ディナの息子は役者志望で、偉大な母を崇拝している。その母を妹が奪ってしまった。父と母は別居し、自分は父と暮らしている。演劇学校の試験のため、練習したセリフを母に聞いてほしいから父と一緒にやってきた。母は「妹に会って話しかけて」と頼む。兄貴は枕元に座り、二人だけにしてもらうが、口から出る言葉は「母さんの人生を潰す気か。母さんはお前にかかりきりだ。父さんも俳優だが、母さんは別格だよ」。演劇の女神だった母が…それもあるが、長年妹にだけ付き添って自分をかまってくれなかった恨みが深い。妹が死んだら母親をやっと自分のものにできる。母親が買い物に出た隙に兄は人工呼吸のチューブを外してしまう。部屋に来た父親が腰を抜かしかけ元に戻し呼吸が復活する。帰宅した母は、部屋に逃げ込んだ息子に「…」。息子は暗い部屋に座り込んでいた。母は手を取る。息子は握り返す。母は冷たく「二度としないでね。次は許さないわよ」そう言ってさっさと部屋を出て行く。そんなことしか(僕にはいうこと、ないのか)と思ったでしょうね。テレビがエルアーナの死を、延命措置の停止を伝えた。ディビナは娘の運命と重ね涙する▼映画が問うているのは、理屈の言い合いではなく、自分の愛情のあり方に納得できるかどうかです。政治家(トニ・セリヴィッロ)に妻は頼む。「私を楽にさせて」。夫は生命維持装置を外す。娘マリア(アルバ・ロルヴァケル)は父が母の命を奪ったと思う。口も利かなくなり反抗する。しかし母親を抱きしめる父の姿を隠れ見て、父は父で、母にとって最善の方法を選んだのだと悟る。彼女は「犯罪“幸運”」で、マケドニアから難民し、レイプのPTSD(心的外傷後ストレス)に苦しむ娼婦を演じました。マリアは恋人を得ますが、彼の弟は異常に兄を頼りにし、女性が近づくだけで敵意をむき出しにする。カフェでマリアが隣にいただけでコップの水をぶっかけるほどの嫉妬です▼監督がマルコ・ベロッキオですからフツーの設定であるはずもなく、近親相姦、男同士のゲイの感情など、心の闇の部分が共通して色濃い。マリアに心を残しながらも、発作的に激情する弟を一人にしておけない兄は、マリアを棄て旅立ちます。彼は一生弟から離れないでしょう。愛とはかくもリアルな負担を強いるものか。それをどう引き受けるかがまた、愛の問題なのです。ベロッキオ監督作品に、マリューシュカ・デートメルスを主役に据えた「肉体の悪魔」があります。レイモン・ラディゲの大胆な組み替えでした▼イザベルのセリフは少ない。二階へ続くゆったりした広い階段。優雅なドアの、部屋がいくつもある豪邸。かしずくメイド。すぐイザベルだとわかる独特の体型、細い小柄な体に大きな頭で背筋を伸ばし、廊下を歩いてくるだけで、イザベルは元大女優の空気を放散させています。