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特集「ディーバ(大女優)」

2018年4月9日

特集「ディーバ16」イザベル・ユペール⑨
悪霊(1989年 文芸映画)

監督 アンジェイ・ワイダ

出演 ランベール・ウィルソン/イザベル・ユペール/オマー・シャリフ

シネマ365日 No.2444

イザベルに任せろ!

ディーバ16

ドストエフスキーの「悪霊」です。幸せなことが何一つ起こらない小説ですね。主人公ニコライ・スタヴローギンにランベール・ウィルソン。日本公開作品には「ダイヤモンド・ラッシュ」「迷宮の女」などがあります。セレブの家の一人息子に生まれ何不自由なく育ち、大学教授ステパン(オマー・シャリフ)が家庭教師につく。容貌・知力・体力とも並外れている白皙の美青年です。彼にはしかしどこか人を不愉快にさせる気味の悪いところがあり、性格の内に反道徳的、反社会的なものを秘めている。このスタヴローギンが友人シャートフの妻マリア(イザベル・ユペール)を妊娠させた。スタヴローギンに棄てられたマリアが夫の元に帰ってきて出産する。時代は1870年頃、若い過激派の一団で同じ村出身の若者たちが、スイスからロシアに帰ってきて、旧体制の転覆を目論み、オルグのピエールの到着を待っていた。彼がグループの鼓吹者スタヴローギンを連れてくるはずだった、と冒頭に字幕が出ていました▼ピエールとはステパン教授の息子です。こいつこそ悪霊が取り付いたような男で、自称「政治的詐欺師」である。体制の転覆といったところで田舎の青年たちにロシアの先行きが読めているはずもなく、ストを起こしたものの簡単に鎮圧され、鞭叩きの懲罰を受ける。ピエールはシャートフを扇動者に仕立て上げ、彼を殺して自分は行方をくらまします。シャートフはスタヴローギンに憧れていた。逆にスタヴローギンの二重性をイヤと言うほど知ったマリアは、誠実なシャートフと生まれた子供と、3人で人生をやり直そうと決意した矢先、夫は殺されてしまうのです。本作ではスタヴローギンの末路は描かれていませんが、彼は虚無の闇に沈没したまま、首を吊ります▼悪霊とは「ルカによる福音書」第8章から取られています。「山の多くの豚の群れが、草を食みたり。悪霊ども、その豚に入らんことをイエスに願い出て許されたり」という、あれですね。ステパン教授によると「悪霊とは病気であり、傷であり、ロシアであり、その不潔物は体の外に出て、豚やら人の中に入るらしい。悪霊に取り付かれると死に、悪霊が体から出ると病人は治る」。いつでもどこでも人にくっつく、融通無碍な猛毒のバイキンみたいなやつです。スタヴローギンは悪霊の化身みたいな男ですから、近寄った女はたまったものじゃない。マリアは棄てられたけれど命があっただけまだマシで、殺されたり自殺したりする女もいる▼イザベル・ユペールは35歳でした。映画が半分以上過ぎたところで登場する。なんで彼女がオファを受けたのか、監督がアンジェイ・ワイダだったというほか、思い当たらない。女優には多いですよ、つい最近、クリステン・スチュワートも「アン・リー監督ならどんな役でもよかった」と言って「ビリー・リンの永遠の一日」を受けていますからね。「悪霊」の端役によってイザベルのステップアップはあったのか。あったと見るのが正解。続いて「主婦マリーがしたこと」「ボヴァリー夫人」「最後の賭け」「甘い罠」でクロード・シャブロルと、「8人の女たち」でフランソワ・オゾンと「ピアニスト」でミヒャエル・ハネケ。ヨーロッパ映画を席巻する難しい監督と役ならイザベルに任せろ! と言うような快進撃。役の大小とか目先の損得でなく、自分が「これは」と直感したチャンスには臨んでみることね。