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特集「頑張るドイツ映画と女性監督」

2018年4月20日

特集「頑張るドイツ映画と女性監督2」②
ありがとう、トニ・エルドマン(下)(2017年 家族映画)

監督 マーレン・アーデ

出演 ペーター・ジモニシェック/ザンドラ・ヒュラー

シネマ365日 No.2455

ありがとう、パパ 

特集_頑張るドイツ映画と女性監督

「チームの結束が弱まっているように思う」とイネスに言った上司が来た。素っ裸で迎えたイネスに仰天する。「結束を強めるために、パーティは全員ヌードです」。上司はうろたえて退散する。イネスの彼氏も来たが「君が冷静になったら話をしよう」と回れ右。イネスの部下が全裸でやってきて仲間入りする。コンコンとノック。開けてみれば上司だ。「いっぱい引っ掛けて」きて、ヌードになっている。イネスは自分の「縛り」をすっぱり脱ぎ捨ててしまったようです。イネスの祖母が亡くなり葬儀に出る。葬儀のあと自宅に戻った。パパが「お前は俺にとって生きる意味は何かと聞いたろう。こまったことに、みんな成果ばかり重視する。義務に追われているうちに人生は終わってしまう。時間は止められない。よく思い出すのだ。自転車の練習をするお前や、バス停でお前を回収して帰ったこと。生きる意味とはあとで大切さがわかる。でもそのときはわからない」。娘はパパの入れ歯をはめ、籠を帽子代わりにかぶる。「似合うぞ。カメラを取ってこよう」そう言ってパパは家の中に入る。入れ歯をはめたり、外したり、イネスは手持ち無沙汰でパパを待っている。そこでエンドだ▼コーチだとかコンサルタントになりすましたパパはイネスに言う。「私は父親問題では役に立てん。だがカリスマをもっと発揮したいときや、それで独り言を言うのに気付いたら連絡してくれ」。カリスマを発揮したいなら相談に乗る、何て心強いじゃない。笑顔のない娘を見ているのが、パパは辛かったのね。大事な一人娘だ。同じ人生ならもっと楽しく生きる方法もあるだろう。娘は上海栄転をぐちゃぐちゃ引伸ばす上司と会社に見切りをつけこれまた一流コンサル会社に転職する。どんな職場か映画には出ない。パパだって娘を心配だというものの、自分のほうがよほど心配な身の上だ。家でピアノを教えていたが最後の生徒はやめ、可愛がっていた老犬は死に、母もみまかった。妻とは離婚していると思える。明るい幸せに満ちた人生などどこにもなさそうだ。でも「トニ・エルドマン」がいる限り、「自分の信じるままに」生きることができそうな気がしてくる▼カリスマでもヒーローでもないが、自分の尊厳を誰にも売り渡さないパパを、娘は心のどこかで尊敬し愛していた。パパがそばに来ただけで、正気ではないことを次々やらかしてくれるが、パパが自分を視てくれていることが痛いほどわかった。それもみな「後になって」わかったのだ。生きることは後悔の連続だ。理解し会うことも後手、後手に回る。でも「トニ・エルドマン」がいたらきっと気がつく。人は怒りながら笑い、笑いながら涙ぐむのだ。そして気がつくのに、遅すぎることはないのだと。マーレン・アーデ監督の描き方は映画のエンドはぶっきらぼうで、愛想もクソもありませんが、全編を通じてしっかり、愛に寄せる信頼を描き上げています。恋人同士のロマンティックな愛情でなく、父と娘という散文的な関係がかえって、監督のありふれたものから特殊なエキスを抽出する、そんな独特の手法にうまくマッチしたようです。