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特集「頑張るドイツ映画と女性監督」

2018年4月21日

特集「頑張るドイツ映画と女性監督2」③
マーサの幸せレシピ(上)(2002年 家族映画)

監督 サンドラ・ネットルベック

出演 マルティナ・ゲデック/セルジオ・カステリット

シネマ365日 No.2456

シェフズテーブル

特集_頑張るドイツ映画と女性監督

心温まるヒューマン映画です。叔母と姪、シェフ同士のライバル意識、母親を亡くし、見たことのない父親に会いたがる少女と、彼女の母親にはなれないと落ち込むマーサの悩み、それを見守るイタリア男の鉄板愛、硬軟縦横に描き分け、人生が楽しくなるラスト。サンドラ・ネットルベック監督も主演のマルティナ・ゲデックも、女同士だからこそ、女を甘やかさない辛口のリードで引っ張っていきます▼ハンブルグのレストランを仕切るシェフのマーサ(マルティナ・ゲデック)は、腕は一流、頑固も一流、味がわからない客のイチャモンには妥協しない。オーナーのフリーダがいつも中に入って仲裁するが平気で聞き流す。料理人の白いユニフォームに身を固め、マーサが厨房に入ってくるとビリビリと電流が走る。「プラダを着た悪魔」シェフ版だ。マーサの姉が交通事故で亡くなった。8歳の姪リナが残された。マーサは子供が苦手だが、たった一人の姪を手放すなんてできない。硬派ではあるが、彼女は情に厚いのである。リナは叔母に心を開かず、せっかく作った料理を食べない。リナは学校に送っていき迎えにいく。仕事を持ち夜は帰りの遅い彼女に、最も苦手とする家事・育児がかぶさってきた。リナは叔母の苦労も知らず、憎らしいくらい反抗的だ。料理には手をつけない、口はきかない。それでもマーサは我慢強く接する。あとでわかるが、リナは自分が叔母の生活に入り込んだことで、叔母の邪魔になり、迷惑をかけているにちがいないと思っている。だからイタリアにいる父親のところ(顔も知らない)に行くのが一番いいのだと子供心に思う。子守を雇ったがリナが手に負えずやめてしまった。マーサは仕方なく学校が終わったら職場に連れていくことにした▼マーサが留守をしている間に、マリオというイタリア人のシェフが雇われていた。冗談ばかりいってみんなを笑わせているマリオは、得意の魚料理でたちまち客の心をつかむ。でも彼は「自分はどこのレストランにでもいけるが、ここへ来たのはあなたの料理が素晴らしいと聞いたからだ。あなたを尊敬している。ぜひ一緒に仕事をしたい」。マーサは気をよくしたが、イタリア男独特の持ち上げ方に気付いて、いっぺんにむかつく。ところがマリオは厨房に入るリナの目の前で、鮮やかな手つきでパスタを作り、むしゃむしゃと頬張る。豪快な食べ方に見惚れるシーンだ。マーサはいつの間にかリナが、マリオの置いていったパスタを夢中で平らげているのを目にする▼シェフは料理を作るだけではない。47席のテーブルに満席の客。彼らの目の前に作りたての料理をオーダー順に速やかに並べねばならない。「7番、先に出して」「8番上がり」テキパキと注文を処理する料理人たち。ピカピカに磨き上げられた調理台、リズミカルに響く包丁の音、グツグツと泡を立てる大鍋、フライパンから躍り上がるパスタのかたまり、手早く瞬時に、行儀よく整列する色とりどりのサラダ、芸術品のように艶やかな小ぶりのスイーツ。マーサの指揮のもと、料理の皿がテーブルに運び出される。清潔で簡素で高密度なレストランのシェフズテーブルの魅力が映画の酸素を濃くする。監督は厨房のキビキビした空気を、カメラがどこまで的確に捉えるかに、もっとも力を入れたとインタビューで答えていた▼ヒロイン、マーサの人となりを、監督は冒頭からこう映し出す。マーサはソファに横になり、空想にふけるように独り言をいっている。「中身はトリュフォやマッシュルーム。肉付きのいいハトが必要よ。痩せたハトだとパサつくから。豚の膀胱に包み、ワインで調理してもいい。柔らかくジューシーに仕上がるわ。付け合わせはタリアテッレ。トリュフォとエシャロットのタイム風味。トリュフォはどんなハトの料理にも完璧に会うのよ。どうしたの。気分が悪いの?」セラピストがおずおずと口を挟む「マーサ。話題を変えてもいいですか」マーサ、話の腰を折られ寝転んだままジロッ。「なぜセラピーを受けに来るのですか」「受けないとクビだとボスがいうのよ」「彼女がセラピーを受けさせる理由は?」「知らないわよ」ツン。料理と仕事しか頭にないマーサは、常軌を逸しているとオーナーには思える。いや、逸しないうちにセラピーを受けさせているのだが、彼女は医師の問診に答えるどころか、レシピの注釈に夢中で、あとでわかるが、セラピーのたび、自分の作った料理を持ってきて目の前で試食させるのである。医師は泣きそうな顔で「マーサ、もう料理は作ってこない約束だよ」拷問に耐えるごとくいう。