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特集「頑張るドイツ映画と女性監督」

2018年4月27日

特集「頑張るドイツ映画と女性監督2」⑨
ビヨンド・サイレンス(1998年 家族映画)

監督 カロリーヌ・リンク

出演 シルヴィー・テステュー/シビラ・キャノニカ/エマニュエル・ラボリ/マティアス・ハビッヒ

シネマ365日 No.2462

雪が降るときはどんな音が?

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両親が聴覚障害で耳が聞こえない、そんな環境でララは手話で育ちました。叔母クラリッサ(シビラ・キャノニカ)がプレゼントしてくれたクラリネットの演奏に天分を発揮する。音楽家を志す娘に、音が聞こえない父親はいい顔をしない。母はよき理解者で「娘はあなたのものじゃないわ」と伝える。作品全体に、家族であっても微妙な食い違いのあることが、大げさでなく描かれます。18歳になったララ(シルヴィー・テステュー)はベルリンの叔母の家に身を寄せ、音楽学校入学試験の演奏科目を練習する。叔母は夫グレゴリー(マティアス・ハビッヒ)とうまくいっていない。「彼は私のクラリネットを聴くと歯が痛むの」。叔母は兄(ララの父)ともぎくしゃくしている。娘時代、彼女が初めて人前で弾いた演奏会があった。兄は自分に聴こえない音楽に苛立ち、クラリッサの演奏中、奇声を発して無茶苦茶にしたからだ。この映画は音楽を媒介とした、音のある世界とない世界、二つの世界が人間関係を結び合わせます▼本作はカロリーヌ・リンクの監督第一作。次作が「点子ちゃんとアントン」で、再びシルヴィー・テステューと組む。三作目が「名もなきアフリカの地で」アカデミー外国語映画賞を受賞した。家族ものに強い監督です。本作はララの成長物語です。母が事故死した後ララは音楽嫌いの父と向き合うことになる。叔母に対しても「あなたは自分のために私に音楽をさせたいのよ。でも自分より上手になるのはイヤなのね」「父親そっくりね」「当たり前よ。あなたの娘じゃないわ」と手厳しく言い返す。そしてアメリカ人青年と恋し一夜を共にする。このあたりは恋愛を入れなければ味付けにならないという、定番ですね▼妻の演奏を聴くと歯が痛むグレゴリーとは離婚となった。なぜ別れたのかというララの問いに「彼女に僕は必要ない。ケンカするくらい愛されたかった」。クラリッサが自分の果たせなかった音楽家への夢を、姪に託したことにウソはない。おそらくグレゴリーを愛してもいる。しかし夢をあきらめた時に失った人生の手がかりをいまだ、つかめずにいる。ララが若さに任せ軽快に自分の道を進もうとしているのに対し、脇役たちが、行きくれることもある人生の陰影を投影して作品の彫りを深めています。母の遺品整理をしながら、母親の匂いを嗅ぐ娘、「雪が降るときはどんな音がするのだい」と父に訊かれ「音はしないのよ。雪は大地を沈黙にするの」と答える娘。ベルリンの試験会場に、田舎からはるばる父は駆けつけます。手短に手話で話す娘。耳は聴こえなくても音楽はわかる。シャガールの絵は音楽だ。音のある世界となかった世界がラストで溶け合います。シルヴィー・テステューは本作のため、手話とドイツ語(彼女はフランス人)とクラリネットを猛特訓しました。「四分間のピアニスト」といい、「敬愛なるベートーヴェン」といい、「戦場のアリア」といい、ドイツの音楽映画には、言いかけた文句をなぜか引っ込めてしまう気になるのが不思議です。