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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2018年5月14日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力7」③
ウィッチ(下)(2017年 ホラー映画)

監督 ロバート・エガース

出演 アニャ・テイラー=ジョイ

シネマ365日 No.2479

黒ヤギがそこにいる

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力7」

トマシンは負けておらず、双子こそ魔女だと言い張ります。父親はトマシンと双子をヤギ小屋に閉じ込めました。父親も母親も正気を失いかけていますが、子供たちだけは守ろうと必死に祈るのです。その夜ヤギ小屋で見たこともない老婆が黒ヤギに覆いかぶさっているのを見て3人は悲鳴をあげます。翌朝、めちゃくちゃに破壊されたヤギ小屋に父親は呆然。白いヤギ2匹は殺され、双子も姿を消しています。黒ヤギがいきなり父親を襲い、ツノで腹を突き刺し殺してしまった。母親はトマシンに詰め寄り「弟を誘惑し次には父親も。お前は私から大切なものを皆奪った」。母親はトマシンの首を絞め、トマシンは手近にあったナイフで母親を刺殺します。家族は破滅です▼疲れ果てて眠りこんだトマシンが目をさますとすっかり夜だった。黒ヤギが小屋の外で彼女を待つように立っています。黒ヤギの名前はフィリップです。トマシンは話しかける。「フィリップ、喋ってちょうだい。双子にしたように。答えてちょうだい」「お前の望みをいってみろ」「何をくれるの?」「バターを味わってみるのはどうだ。ドレスも着せてやろう。世界も見せてやろう。目の前に本があるだろう。服を脱いで署名しろ」「字が書けないの」「手を貸してやろう」。トマシンは森へ入っていく。黒ヤギがついていく。平らな台地になった場所に炎が燃え、輪になって裸の女たちが何か唱えながら踊っていた。トマシンも裸だ。恍惚とした表情がトマシンに浮かび、両手を広げた彼女の体は宙に浮いて、高々と虚空に昇っていく。ここでエンドです▼お父さんとお母さんが気の毒な役回りね。家族を守るために懸命に努力するのに、それが空回りしちゃうのね。悪魔のせいで。悪魔とは誰の心にも巣食う邪心であるとこの映画はいっているようです。父親は短気を起こして村を出た失敗を誰かのせいにしたい、この際、悪魔でも魔女でもいい。母親は気の合わない長女がうとましく、可愛がっている長男が姉を愛しているのも気に入らない、双子は生まれつき意地が悪い。疑心暗鬼が限りなく膨らみ、赤ん坊をいれてたった7人しかいない家族共同体が崩壊する。悪魔が実際にいようといまいと、魔女が誰であろうと、いると思えばいるし、いないと思えばいない、人は自分の心にあるものしか見ないと言ったのはパトリシア・ハイスミスだけど、至言ね。じゃ、トマシンが宙に昇っていく現象をなんとする? さあね。わたしが見たわけじゃないから(笑)。でも冒頭に書いたように「実在する」という軸足で監督は本作を撮っているのだからそれを尊重するわ。世間や他人がなんとなく面白くないとか、人が自分を攻撃していると思えて仕方ないとか、そんな気分になったら「そうか、黒ヤギがそこに来ているのかも」と考えることにしよう。そういえば黒ヤギを追い払う方法をこの映画は教えていないわね。各自最良の方法を編み出せってことよ。