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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2018年5月15日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力7」④
ゼロの未来(2015年 ファンタジー映画)

監督 テリー・ギリアム

出演 クリストフ・ヴァルツ/メラニー・ティエリー/デヴィッド・シューリス/ティルダ・スウィントン

シネマ365日 No.2480

大きなお世話よ

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力7」

映画を見る前に思ったこと。「監督がテリー・ギリアムだからだまされないようにしよう」(笑)。主人公コーエン・レス(クリストファ・ヴァルツ)は自分のことを「われわれ」と呼びます。時代は近未来。情報社会に彼は疲れ、ある夜かかってきた電話から声が聞こえ、コーエンは「われわれの使命が何なのか。その声は存在の理由を明かしてくれると。電話線の奥に渦巻く果てしないパワーを感じ、大きな愛で震えた」以来、会社には在宅勤務を申し出、膨大なデータ管理をしながら、いつかかってくるかわからない電話を待つ。彼は世界のコンピュータを支配する「マンコム社」の存在意義リサーチ部に属する天才プログラマーだ。社長は彼の能力を見込み「ゼロの定理」の解明を指示します▼「存在の理由を明かしてくれる」なんて大きなお世話でしょう。生まれてきて一生懸命生きるのが存在の理由であって、そんなシンプルなこと、恩着せがましく「明かして」くれなくていいわよ。健全な常識が通用しないのだから天才って困ったものね。コーエンは世間知らずだから電話詐欺に引っかかったのでは。だいいち、マンコム社の社長というのがいい加減な男で(誰あろう、マット・デイモンが扮しています)存在とか無とか、真面目なコーエンが必死になって解明しようとして行き詰まり「あなたはなぜ全ては無だと照明したいのです?」と開き直って質問する、するとですね「全ては無ではない、私はビジネスマンだ、無などない、無とは全てであり、すべてとはカオスであり、カオスには金脈が眠る、マンコム社はそれを探し続けているのだ」と問題をすり替えちゃうのね。だったら「ゼロの定理」とか「存在の目的」とか、ややこしいことを言わず、新しいアルゴリズムで世界を支配したいと、あっさりいえばコーエンは悩まなくてすんだのよ。もともとコンピュータにかけては天才なのだからさ▼社長の息子ボブがこれまた天才で、15歳かそこらで「ゼロの定理ってウンコだ。宇宙は何の意味もないことを照明しようとしている。全ての物質、エネルギーは何もかもたった一度のビッグバンによる偶然の産物だ。膨張し続ける宇宙はやがてブラックホールに飲み込まれる。あまりに強い重力で全てはゼロ次元である点に収縮され、空間・時間・生命・来世さえも消える」などというのは、内容が正しいのかどうかという前に、「あんた、好きな女の子とおいしいものでも食べたら?」と現実次元に引きもどしてやるのが親心だと思える。彼とコーエンは気があって、ボブはコーエンの部屋に入り浸り「ゼロの定理」を完成させてやる。社長は監視カメラで四六時中コーエンを監視し「ゼロの解明」を見届けようとしていた▼サイトで知り合ったベインズリー(メラニー・ティエリー)にコーエンは恋する。ベインズリーはコールガールだ。人生の意味を電話の回答に求め続けるコーエンとは違う方向から、彼女もまた生きる意味を模索している。コーエンと街を出て「一緒に暮らそう、あなたには私が必要よ。私はあなたに必要とされたいの」というのにコーエンは現実の愛を信じない。ゼロの定理を解明したら「君は用済みだ」。コーエンは怒りを爆発させ中枢機能を破壊し、意識の中に持っていた虚無の渦に身を投げ、仮想現実で体験した、ベインズリーとの思い出の夕陽の浜辺に立つ▼やるせないわね。たとえ明日未来が消えるとしても、人は自分が決めた未来を刹那であれ、生きることができるのよ。花の水を替えたり、原稿の続きを書いたり、愛する人ととめどない話をしたりして。特別なことなんて何もないのよ。下らない質問なんか無視するにはコーエンは頭がよすぎたのね。ティルダ・スウィントンは会社からコーエンの精神状態を管理する精神科医です。「電話はあなたの妄想なの。あなたの特定の症状は治さないよう会社から指示されていた」。つまりコーエンがベインズリーとの恋とか、愛を知る現実の人生に近づかないよう管理していたわけね。コンピュータの画面に三角形の妙なヘアスタイルで現れ、腹を立てカツラを放り投げるとスキンヘッド。「スノーピアサー」のゆで卵売り、「ドクター・ストレンジ」のワン師、今さら変わった女優だと言っても始まらないけど、彼女どうしてこう坊主頭が好きなの。