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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2018年5月16日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力7」⑤
スマイルコレクター(2007年 劇場未公開)

監督 アルフレッド・ロット

出演 メラニー・ロラン/ナタリー・リシャール

シネマ365日 No.2481

死の世界で微笑む女

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力7」

フランス版「羊たちの沈黙」が売りです。少女誘拐があり、プロファイリングの専門とする巡査部長リューシー(メラニー・ロラン)が現場の捜査に駆り出され、先輩の男刑事たちから「小娘」とか「お嬢ちゃん」とか侮られながら、得意のファイリングを駆使して犯人像を絞っていく。リューシーには少女誘拐に対する異常な執着があり、過去の事件のほとんどが私的にファイリングされている。トラウマを持つふたりの女性の過去が回想で挿入されながら、事件の全体像が明らかになっていきます。「羊たちの…」に似たところがありますが、これはこれでいいでしょ。本作は一言でいうと「母もの」です。冒頭いきなりバスタブを染めた女性の自殺体で始まる。幼い娘が母親に触れ、恐怖にかられる。黒い虫が床を這い、娘は泣き叫んで虫を叩き潰す。とても激しい悲しみです▼誘拐された少女は殺されていた。遺体は口角が上がり微笑しているように見える。犯人は冷静極まる人物で、硬直が始まるまで約1時間かそれ以上、唇を抑えている。しかも服装は1980年代のアナベル人形の衣装である。服には死後2か月のオオカミの毛が付着していた。リューシー達は動物園、獣医、動物保護施設など、オオカミに結びつく施設・機関を調べるうち、一人の女性剥製師アナベルが浮上してきた。彼女が犯人です。本作はどんでん返しでもなんでもない、早い段階で犯人はわかります。本作にはもう一つ回想シーンがあります。これが話をややこしくしています。リューシー自身の誘拐と虐待です。幼児期に監禁され、同じく誘拐されていた少女を助けようとするができず、少女が自分の代わりにこれを持っていってと青い人形を渡した。彼女の部屋には誰にも開いて見せたこともない壁にはめ込みのボックスがあり、何が入っているのか誰も知らない。彼女が恋人と再出発するとき扉を開けて取り出したのが青い人形。それを捨てます。トラウマから解放されたということでしょう▼母親が自殺した少女アナベルは、女性のパートナーと暮らしています。部屋には剥製が並んでいる。剥製とはあたかも生きているごとき死の世界です。誘拐の背景も動機も詳しく映画は触れない。少女を殺して微笑させたのは死んだ動物を加工する手段と似ている。彼女が少女を誘拐するのはこれが初めてではなく、過去の連続誘拐殺人事件に関与していることを映画はほのめかし、同棲のパートナーは彼女の異常性に気づいて一旦別れたものの、帰ってきたのでアナベルが喜んで迎えている、というのが現在です▼母親が死んでからアナベルの心は死んでしまった。若い女性が猿や犬や、動物の内臓をさばき、血を抜き、革を剥ぎ、整形するという一連の作業を、黙々と一人でこなしている有様を想像すると、彼女が並の喪失感の中に身を置いていたのではないと思えます。ただ一つ自分の少女時代と母親を結びつけるものが人形だった。彼女は動物虐待保護協会からたくさんの動物を里親としてもらい受け剥製にしていた。想像しただけでゾッとします。アナベルは追い詰められ母親と同じバスタブで胸を突いて死ぬ。彼女は少女も剥製にするつもりだったし、同棲するパートナーも殺してしまった。彼女の周りは死体だらけだ。剥製として蘇らせることだけが、死と虚無の中にいるアナベルが世界との手がかりを持つ儀式だった。死の世界で微笑むアナベルが痛ましかった。