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特集「サイコパス」

2018年6月3日

特集「サイコパス」③ 伊藤英明
悪の教典(2012年 ホラー映画)

監督 三池崇史

出演 伊藤英明

シネマ365日 No.2499

白い左目の視線 

サイコパス

サイコパス(反社会的人格障害)を主人公にした映画は「サイコ」を持ちだすまでもなく、名作・佳品が多いです。主人公は内面世界に没入し、その一方でまっとうな社会性を身につけた仮面をかぶる。そのギャップがどんでん返しを導くストーリーが多い。本作は生まれつき共感能力ゼロの主人公の蓮実(伊藤英明)が、生徒や同僚の教師に、どことなくおかしいと疑問を持たれ、やばくなった蓮実が大量無差別殺人に至ると、早い段階で教えます。彼は高校の英語教師で、生徒から兄貴のように慕われている人気者でした。息子の異常性を知った両親も強盗に見せかけ殺した。非常に頭脳明晰で京大、ハーバード大学、欧州系投資会社とエリート街道を歩きながら日本に帰国、高校教師となり、その学校ではなぜか4人の生徒が自殺した。このあたりも共演者たちが丁寧に演じて、見ているほうはすらすらとはいっていけます。クライマックスは、連続殺人犯の正体を知った、2年4組の教え子たち全員射殺する虐殺シーンです▼しかし、千慮の一失というべきか、蓮実は2名の生存者を見落としており、彼らが突きつけた保健室のテープが証拠となり逮捕されます。「これは全部頭の中に響いてきた命令なのだ。4組の生徒の魂を救うためだよ」といかれたふうを装い、精神病院送りを狙っています。「完全にこいつ狂っている」と生存者の生徒が言うと、もう一人生き残った女生徒が「ちがう、こいつ、もう次のゲームを始めたのよ」とつぶやくシーンでエンド。最後までグイグイ引っ張られた力作です。豪速球で押しまくられた感じです。ただ、グロテスクで衝撃的な内容を、素直にセリフで説明してくれているので、映画としても蓮実という人物にも謎がなかったこと。蓮実は自分のやることは「可ならざるはなし」と信じているナルシストです。彼と映画の足歩が同調し、疑念の余地のない…こういう言い方はおかしいかもしれませんが、明朗なまでに自信満々の犯罪者が出来上がった▼良心のかけらもないところがサイコパスの所以なのだと、言えば言えるでしょうが、その平坦さが主人公を薄っぺらにしたと思えます。蓮実の行動を見ていると「なんでもいいから殺しちゃえ」と、まるでゴミでも片付けるように殺し、罠に嵌める。地下鉄で数学の教師を首吊り自殺に見せかけたときは、さすがに(そこまでうまいこといくのかよ)と疑問になりました。犯罪映画にこそ繊細な設定がいる。例えば「M」で、盲目の占い師が「ペール・ギュント」の口笛を聴きとり、犯人だと直感する。少女8人の誘拐殺人犯逮捕の決め手になるシーンです。本作では「マック・ザ・ナイフ」が非常に印象的ですが、使われすぎの感もあり、犯罪の予告というより、伊藤英明の鼻歌とまりで、しまいに「またかよ」と思いました。ただ映画ならでは、の優れた映像がいくつかあります。カラスの一対が荒地の柵に止まりに来る。蓮実は「フギン」(思考)と「ムニン」(記憶)と名付け、鳴き声がうるさいからと電流を流しフギンを殺す。左目の白いムニンは生き残って蓮実を見つめます。ラストシーンで、生存した逮捕された蓮実を見る女生徒の左目が白くなる。この「白い左目の視線」…冷笑や軽蔑や告発を浮かび上がらせる視線をもっと活用すれば、デリカシーな陰影はより濃くなった。そうそう、原作者の貴志祐介さんがカメオ出演しています。妨害電波の職員会議のシーンで「期待していますよ」と蓮実に話しかける先生です。