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特集「サイコパス」

2018年6月9日

特集「サイコパス」⑨ 吹越満
冷たい熱帯魚(2011年 事実に基づく映画)

監督 園子温

出演 吹越満/でんでん/黒沢あすか/渡辺哲

シネマ365日 No.2505

異系のシステム

サイコパス6-10

極め付けのダークヴィジョンです。サイコパスとは心の裂け目が、何かのきっかけが引き金となり炸裂する、と思っていたけど、この映画は違いますね。もともと炸裂しているが日常生活で、その裂け目が他人には見えなかった、という人たちが主人公です。例えば、私たちがネットで手に入らないものは何もない、という錯覚を持ってしまうように、彼らは、この世の面倒なことは殺したらカタがつく、と錯覚している。殺すことを「透明にする」と言い換えているのは、殺す行為が、彼らの精神状態を透き通った平静な状態にするからだ。残酷さに対する常軌を逸した熱望と底知れない冷たさ。彼らは血まみれになりながら精肉工場の解体肉を扱うようにおしゃべりしながら冷静に作業する。そんなシーンに、人の中に潜在する暗黙のベクトルが鮮明に現れています。村田(でんでん)というサイコパスに関わる全ての人物—妻の愛子(黒沢あすか)にしても、顧問弁護士の筒井(渡辺哲)にしても、行動パターンはみな共通している。「邪魔だ、透明にしよう」なのです▼村田の経営する熱帯魚店には、日常の世間と同じ平穏な時間が流れている。しかし村田が関わると、一挙に非日常に逆転する。笑い、いたわり、感謝といった本来人の心を安定させる要素は締め出され、異系のシステムにとって代わってしまう。平凡な一市民だった社本(吹越満)も、このシステムに取り込まれ、潜んでいた暴力性や残虐性が覚醒した、というより、呼び醒まさねば彼らに対抗できなかった。悪は悪を呼ぶ。繰り返される殺人の連鎖には救いがありません。社本の娘は、父が母の死後いくらもたっていないのに再婚した、継母に当たる妙子と気が合わない。問題行動を繰り返し、スーパーの万引きで店長に捕まり、社本夫婦が呼び出される。平謝りに謝る父親の隣で、ふくれ面をするだけで「すみません」も言わない。そこへ割って入ったのが村田で、巧みに収拾する。同業者だということで村田は社本夫婦を店に呼び妻の愛子に紹介する▼中年男の冴えない村田が、真っ赤なポルシェを乗り回している不適合。あまりにも強引な事業提携の持ちかけ。一匹一千万もするという外来種の熱帯魚。これを繁殖させて一儲けしようという誘いに乗った吉田という業者は、現金を村田に渡したとたん、怪しげなドリンクを飲まされ苦しみだす。救急車を呼ぼうと慌てる社本に「用はすんだ、放っておけ、もうすぐ死ぬ」と、ガラリ本性を現す村田。筒井も愛子も殺しの一族郎等だ。社本が徐々に異系の世界に滑り込む。口答えする娘に平手打ちを食らわせる。ある日刑事が来た。村田の聞き込み調査だった。彼に関わった行方不明者が30人ほどいる。心当たりはないか…社本は村田を殺す。愛子が喜々として解体する。筒井も殺した。社本は警察に通報し、現場に刑事たちが来た。社本は自殺する。社本の死体に娘は言う。「やっとくたばりやがった、クソジジイ」。こんな娘や、理解がある風には見えない妻と一緒に、温かい家庭を作り、守ろうと社本が痛ましい。「プラネタリウムに行かないか、ほら、君と初めて行っただろう」は泣かせた▼本作は愛と希望の「なれの果て」です。それが露悪趣味ではなく、人生の真実の一断面であることを監督はつきつけてくる。わかった、わかった、それはわかった、しかし監督の迫力に負けないようにこう言おう。異系のシステムだけが世界じゃない、正系のシステムで生きる努力と方法はいくらでもある。