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特集「荻上直子じゃ!」

2018年6月12日

特集「荻上直子じゃ!」②
レンタネコ(2011年 ファンタジー映画)

監督 荻上直子

出演 市川実日子/草村礼子/光石研/山田真歩/小林克也

シネマ365日 No.2508

「レンタ〜ネコ、ネコネコ」 

0611_15荻上直子

彼らが本気で編むときは、」で、荻上直子監督の温かいものの見方がいいな、と思い「かもめ食堂」を見て、妙な女性たちの、ゆるい雰囲気も(ま、アリか)と認め、三作目が本作。「またお前か。私って、猫が寄ってくるのだよね〜」とヒロインが、庭に紛れ込んできた白猫に話しかけるシーンで思わずプッ。猫好きはしょっちゅう、これ、やっているのですよね。夏の日差しがきらめく玉川の土手を「レンタ〜(ここをたっぷりのばす)ネコ、ネコネコ」とハンドメガホンでサヨコ(市川実日子)が、リヤカーに猫を積んでのんびり歩いてくる。四、五匹の猫が一匹ずつカゴや箱におおさまり、眩しそうに目を閉じたり薄く開けたりしている。騒ぐ気配はない。それもそのはず、彼らにとって世界は我がものであり、自分を大事にする人間にだけ、かろうじて居住を許す、そんな生き物が猫なのだというふうに、荻上監督はすでに猫視線である。サヨコはゆっくり呼びかける「さびしい人に、ネコネコ」。よくこんな浮世離れした映画を作ったものだ▼まだ三本目だけど、彼女の映画は基本ファンタジーだと思う。夫と愛猫に死に別れたペットロスの婦人(草村礼子)、単身赴任だが、妻と娘の冷たい視線がさびしい中年男に(光石研)、12年の勤務中、店舗から一歩も出ず、いつも一人で店番しているレンタカーショップの山田真歩。ほらふきでお尋ね者になった中学時代の同級生。彼らはサヨコから猫をレンタルし、「心の穴」を埋める。猫と孤独はニコイチなのか。ツンとした孤高の精神、独立独歩の生き方、それでいて「腹が減った・寒い」という100%自分の都合により、ゴロゴロと喉を鳴らし、足元にスリスリするエゴイストの権化。リヤカーの中に14歳の猫がいて、草村はその猫をレンタルし「自分が他界するまで」一緒に暮らすことにする▼お尋ね者の同級生は、サヨコの家まで訪ねてきたものの、猫をレンタルしないで帰る。自分がお縄になったら誰も世話してやるものがいないからだ。いつも一人で昼ご飯を食べる山田は「一緒にランチしてくれませんか」とサヨコに頼み、店内のベンチに腰掛け手持ちのドーナツを分ける。あまりにも侘しい昼食。中年パパのつま先の破れた靴下、息子に食べさせるつもりで、ゼリーを冷凍室に作り置きしたまま逝った婦人。猫をレンタルする背景には、穴だらけの人の心が顔を出す。そしていつのまにか私たちは、監督の「猫ワールド」に、というより、彼女が猫を借りて想起させる詩情にたらし込まれてしまう。そしてスクリーンから聞こえる「レンタ〜ネコ、ネコネコ」の呼びかけに、耳を澄ましてしまうのだ。かくも人はさびしく、かくも人は癒されたいと願っている。そんな弱みを突いた、なんと小ヅラ憎い映画だろう▼隣の住人、小林克也はヒッチコック映画でいうマクガフィンだろう。「あなたの前世はセミよ。だから猫ばかり来るのさ」「170センチ以上、背のある女はモテないのよ」「夏の日の、一人ソーメン、虚しけり」とサヨコに嫌味ばかりいい「赤いバラ、青いバラ」とおきまりの鼻歌を歌いながら家に引っ込む。彼の登場に意味があるわけではないが、この役は小林克也でなければならぬという、パンチが効いている。