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特集「荻上直子じゃ!」

2018年6月13日

特集「荻上直子じゃ!」③
バーバー吉野(2004年 ファンタジー映画)

監督 荻上直子

出演 もたいまさこ

シネマ365日 No.2509

純真でサイケなヒロイン 

0611_15荻上直子

荻上直子の長編映画デビュー作。その町の小学生はみな前髪を切り揃えた「吉野ガリ」という頭にするのが伝統だった…ここで(おや)と思うのよね。どうして男子だけなの? 劇中の説明によれば「町に古い言い伝えがあり、裏山に天狗が住み、時々山から降りて男の子をさらっていく。天狗の目をごまかすために子供の髪を同じ形にした」らしいのだけど、そんなことすれば余計目立つじゃない。さらっていくのは男の子だけなのね。ふ〜ん。本作の主人公は町立小学校に通う4人組の男の子たち。みな同じ髪型だけど、東京から来た転校生のヘアスタイルに憧れ、吉野ガリに造反する。町で一軒だけの理髪店「バーバー吉野」のおばちゃん(もたいまさこ)は伝統派。吉野ガリは町の風景の一部だと主張し、譲らない▼自由な髪型を認めるまでは家に帰らないと結束し「山の日」という町最大の祭りの夜に、髪を染め、脱吉野ガリスタイルで現れる。おばちゃんの息子も造反組の一人だ。彼らの新スタイルを見た少年たちは「僕も変えたい」と続々賛同。吉野ガリはあっさり変革され、おばちゃんは一時がっくりきたが「時代には逆らえないよ。伝統は伝説になるのさ」という古老の言葉に元気を取り戻し、いつもの平穏な生活が訪れる。田舎の牧歌的な風景と、昔ながらの町並みがいかにも荻上スタイルです。ノスタルジックなムードの「癒し系」ですが、たるいこと、たるいこと。髪型の一つや二つ、どうでもいいだろ、と思いながら見ていたので、映画に入りきれませんでしたが、やはり最初の疑問が浮かぶ。どうして男の子だけ? そういえば女の子は本作では副次的存在もいいところで、教室でキャアキャア言っているか、おばちゃんの娘が男と付き合い、捨てられ、荷物を持って町を出て行くシーンが挟まるくらいです▼監督はひょっとして、女の子は(絶対いうことを聞かない)という確信犯だったのでは、と仮定しました。バーバー吉野は100年も続く町の散髪屋さんで、そこに行っておとなしく散髪してもらうのは男の子である、女の子はどれだけ言って聞かせても勝手なことをやる。遺伝子にタテ社会が組み込まれ、秩序と組織と規律に美を見出すのは男社会であって、身を分断して子を産む女の荒技に比べたら、ラジカルでワイルドなのは女なのでは? 子連れのカバにはライオンも近づかない。ネコ科が最も苦手とする水中戦に引きずり込まれ、巨大な口でズタボロにされる。吉野ガリに女の子を選んでいたら、バーバー吉野は焼滅していたかも。江戸を焼き払った女性だっていた。そういう前提のもとに監督はハナから女子をオミットしたのではないか▼劇中ふと思い浮かんだ仮定のもとに映画を見ていたら、伝統論争もいい、表現は自由もけっこう。でもたかが小学生のときだけの吉野ガリに、町中大騒ぎするの、感情移入するには距離感ありすぎ。ただし、もたいまさこの純真かつサイケなモンスターぶりに一票。彼女のサイケの血筋は明らかに「かもめ食堂」の女たち、「レンタネコ」の主人公に受け継がれています。