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特集「感じのいい女優」

2018年6月25日

特集「感じのいい女優」ナオミ・ワッツ8日間③
プレイズ エリー・パーカー(2006年 コメディ映画)

監督 スコット・マフィ

出演 ナオミ・ワッツ/レベッカ・リグ

シネマ365日 No.2521

本当によかった

特集「感じのいい女優」ナオミ・ワッツ8日間

ナオミ・ワッツ「初の主演」らしいですが、実際は「マルホランド・ドライブ」で共演したスコット・コフィと製作した16分の短編を4年かけて長編化したものです。我慢強くやったものね。製作中に「リング」「21グラム」でナオミが認められ、ブレークする前兆がこの映画には秘められている(笑)。セルフ・コメディみたいなノリですが、地獄のハリウッドで夢を貫く、駆け出し女優エリーを素直に演じています。オーディション会場をぐるぐる回り、受けては落ち、受けては落ちの毎日。エリーの車は走る「押入れ」だ。役柄に応じた衣装の着替え、メーク、小物、靴などがぎっしり。この映画の進行中、ナオミは33歳だった。等身大の年齢です。いつまでたっても芽が出ない。親友のサム(レベッカ・リグ)に「自分がわからない」と弱音を吐く。サムは「みんなそうよ」「私、何をしているの?」「あなたの行動があなたなの。この堕落と死の時代に自分が何かなんて、わかる?」サムもオーディションを掛け持ちで走る女優の卵だ。激したり落ち込んだりするエリーを励ます、冷静ないいやつです▼エリーはジャスティンというミュージシャンと同棲中。「一人でいるよりマシだから彼といる」サム「彼といるとバカになるわ。しばらく一人でいたらどう?」そうなるより早く、ジャスティンの浮気の現場をエリーが目撃、同棲を解消し、サムの部屋に転がり込む。「好きなだけいていいわ。もう彼の下手な歌を聞かなくてすむ。弾く姿も見なくてすむ」「素晴らしい役にのめり込みたいの。弁護士や娼婦や軽い恋人なんかじゃなく、本当の人物を演じたいの。演じられたら最高なのは総合失調症の女よ。盲目のレスビアンの人類学者。18世紀の話で彼女はテング熱にかかるの。ヒヒの研究をしているの。よくない? 聞いてる?」「先に彼を射殺してほしいわ」そこへジャスティンが来て窓をガンガン、深夜である。「俺を愛しているだろ」エリーは怒鳴り返す「それほど落ちぶれていないわ!」▼エリーとサムが泥パックを顔に塗りつけベッドで会話。「自分自身でいたいの。男のイメージに合わせたくない」「ここ(ハリウッド)では誰もが自分以外の役を演じている。その役に自分が似てきたら?」「ビッチよ!」エリーがお腹のハミ肉をつまみ「覚えている? まだ未来が明るかったころ。今は脅威だわ。私、老けた?」「バカね」「死にたくないわ」「よしなさい」。演技指導講習を受けに行く。講師「10歳のころに戻って動物になるのだ。牛、犬、鶏、君は?」エリー「カンガルーです」「いいぞ、よし、いこう」。受講生たちは床を這い回り、サムがささやく「こんなこと、メリル・ストリープもやったと思う?」。帰りの車で泣く練習をする。「ほら、もう涙が出てきたわ。本物よ。すぐこぼれるわ」とサム。エリーは声だけ嗚咽するが目はまだ乾いている。ふううん。女優たちがスクリーンで本当に涙を流すのはこういう練習のたまものなのね▼思いあまったエリーはついにエージェントを事務所に訪ね「辞めます。なぜ女優になりたいのかわからない。もうやってらんない」「うちのスタッフはみな、君に仕事を取ろうと必死だよ。誰もが君を優れた女優だと思っている。少し落ち込んでいるのだね。相手に伝わるよ。人は自信のある者を取るからね」「もうどうでもいい」「嫌なことがあったからって、焦って決めなくてもいいだろう」。エリーは荷物を整理する。デモビデオ、宣伝用写真、ノート、ありとあらゆる資料をゴミ回収箱にぶち込む。エージェントから電話があった。「まだ引退していないならもう一回、受けたらどうだ」。エリーは受けることにした。オーディション会場には監督、プロデューサーが並ぶ。悪夢のような映画だ。エリーはどうする。映画はそこでエンド。ナオミの初期の映画が怪奇、お笑いものだったことを思えば、本作はまるでドキュメントね。ハリウッドの裏を取り上げたナオミ主演の「マルドラ」前夜です。セリフはほとんどナオミのアドリブだという説もある。脚本にも彼女の名前が入っていますし。最悪の時代を彼女は腐らず、沈まず乗り切ったのね。本作を見て最も感慨深いのは私たちより、むしろナオミ・ワッツ自身ではないか。彼女がハリウッドのトップに位置する女優になって、本当によかった。