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特集「ヒッチコックが新しい」

2018年7月2日

特集「ヒッチコックが新しい」②
三十九夜(1936年 ミステリー映画)

監督 アルフレッド・ヒッチコック

出演 ロバート・ドーナット/マデリーン・キャロル

シネマ365日 No.2528

冷たいセックスアピール 

ヒッチコック

 ヒッチコックは「銀幕の美女」について大雑把な原則を持っていた。新聞の取材に答えたもので「目と目の間は広いこと。顔の形は面長より卵形か丸みのあるほうがいい。顎の線が丸いのは大事な条件だ。顔立ちは、あまりさっぱりしているのはいけない。スクリーンでは生気があって動きにキラキラするものがなければならないが、それは自意識とは反対のものだ」。本作のヒロイン、マデリーン・キャロルは合格だった。ヒッチコック夫人、アルマが初対面からマデリーンが気に入り、いつか夫の映画のヒロインになればいいと思っていた、というのも大きい。ヒッチコックの好みは、マリリン・モンロー型ではなく、冷たいセックスアピールのある女優だった。どちらかといえば教師みたいに見える、頭のいい女性だった▼マデリーンはヒッチコック・タイプと言える最初のブロンド女優だった。劇中、彼女と主役のロバート・ドーナットは手錠をはめられて逃走することになる。手錠という「縛り」を施すことで、男女の間の感情の化学変化がヒッチの楽しみだった。彼は撮影中、二人に手錠をはめ、「鍵をなくした」と言って姿を消した。不便なまま放って置かれた役者たちは、服はヨレヨレ、疲労し怒り、困惑したときに不意に鍵は見つかり、手錠は外された。ヒッチのこんな「いたずら」はほとんどの女優に降りかかるが、まだ「三十九夜」の時期は救われていた。ヒッチの社交的な一面が「悪ふざけ」を可愛げのあるものにしていていたからだ。ヒッチのサディスックな嗜好が強くなるのは本作以後だろう。彼は太りだし、移動するのも億劫になり、監督としての威厳と権威は保持し、身綺麗でもあったが、不格好な「見た目」が彼をコンプレックスに落とし込んだ。彼は喋らなくなり、ウツ状態に近く、不意に黙り込み、スタッフを当惑させた。それが顕著になるのは次の「間諜最後の日」で、これまたマデリーンがヒロインを務めた▼物語は国家規模の秘密をスパイが持ち出すのを防ぐお話だ。国の防空に関わる飛行機の設計図と数式を、国外に持ち出そうと暗躍するスパイを相手に、ロバート・ドーナットとマデリーン・キャロルが「手錠のままの脱獄」みたいに逃走しながら、秘密は書類に書かれたものではなく「記憶屋」と呼ばれるボードビルのショーマンの頭の中にあった。彼の存在はヒッチコックの「記憶」そのもので、ミュージックホールで過ごした若き日の思い出の中にある芸人を復活させた。本作は2018年から82年前に作られている。さき頃イギリスの映画サイトが色気を感じない女優(このものズバリの表現ではなかったと思うが)のベストテンに、ティルダ・スウィントン、クリステン・スチュワート、ユマ・サーマンらが上がっていた。平穏な温かく女っぽいムードではなく、冷たい硬質のエロチシズム派だと思える。まさかそうだとは断言できないが、ヒッチの好みには、セクシャリティが男女にかかわらぬ、ユニ的傾向に進むであろう、先読みがあったのかも。