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特集「ヒッチコックが新しい」

2018年7月3日

特集「ヒッチコックが新しい」③
サボタージュ(1936年 サスペンス映画)

監督 アルフレッド・ヒッチコック

出演 シルヴィア・シドニー

シネマ365日 No.2529

ヒッチって、いけてる 

ヒッチコック

ロンドンの爆破テロを扱ったサスペンス映画、と書くと現代にもオーバーラップしそう。時代は1930年代、第一次世界大戦終結後にして第二次世界大戦の予兆を孕むロンドンの下町。大規模停電が生じ、映画館では上映が途切れた。金を返せと観客が騒ぐのを館主の妻(シルヴィア・シドニー)が対応する。夫は留守だ。押され気味の妻に変わった留守居役の女性が面白い。「一体何が不満なの。停電は映画館の責任だとでも。汚職警官に国が給料を返せというかしら。足を踏んだ相手に賠償金を払えとでも?」押し問答の最中、夫はこっそり帰宅し部屋で寝たふり。彼はテロ活動の首謀者という裏の顔がある。折しも電気が戻って問題解決。妻が自宅(映画館の奥)に戻ると、弟のスティーブが甲斐甲斐しく夕食を作っている。姉と年の離れた弟で、姉思い、弟思いの仲のいい姉弟だ▼映画館の隣の八百屋に働くテッドはロンドン警視庁の刑事だ。テロ犯が映画館主だと目星をつけ、証拠を挙げるため、八百屋で働きながら監視する。館主は水族館で仲間と落合、土曜日の午後1時45分、パレードの最中に爆破するよう手筈を整え、爆弾を駅の荷物預かり所におくことにする。テッドが聞き込みに来たため館主は外に出られず、スティーブに爆弾の運び役を頼む。スティーブは忠実に役目を果たそうとするが、パレードに見とれたり、群衆に足止めを食ったり、予定の時刻に間に合いそうにない、そこでバスに乗って急ぐことにする。しかし1時45分、少年が大事に抱えていたフィルムケースは爆発、バスと乗客は吹っ飛び、丸焦げになる。事件を知った妻は失神する。なぜ弟に運び屋などをさせた夫と妻の間は「夫はスティーブを可愛がってくれる」というのが夫婦を結びつけている理由だった。夫には不審な行動があると妻は薄々感じていた。なぜ弟に代役などやらせた。夫は「気を静めて、済んだことにこだわらず未来を見よう。子供を作るのはどうだ」平坦にいう。妻の気持ちは徹底的に夫から離れる▼妻はあっさり夫を殺しちゃうのです。ナイフで一突き。ヒッチコックは何が言いたかったのか。「女は見境がない」「女は我を忘れる」「女は人を平気で殺す」みな当たっていると思えますが、確かなことは、ヒッチは妻の肩を持っていること。夫はせっかく作ってくれた料理に「また野菜を煮込みすぎている。私は生野菜が好きなのだ」妻は笑顔で「サラダを作りなおすわね」。夫は口うるさく面白みもない男だった。弟といるときだけ楽しい。テッドが高級レストランで弟にステーキをご馳走してくれたことがうれしい。テッドは妻への同情がいつしか愛情に変わる。ところがヒッチは、刑事が殺人犯は妻だとわかっても「死体が発見されるまで時間がある。その間に逃げよう」なんて言わせる。ヒッチコックは女嫌いだというのが定説ですが、男にもなかなか…少なくとも本作では、夫には「こんなやつ殺されて当然」の扱いである。彼は女も男も、嫌いでもなければ好きでもなかった。おだてもしなければバカにもしなかった。ヒッチは「ゲイの人たちとうまくやっていた。彼は口癖に、俳優は内面まで他人になりきるために、男性的な面も女性的な面も兼ね備えていなければいけない。主観や感情といったものは性を超越していると考えていたのね」とインタビューで答えた女優の言葉を伝記作者ドナルド・スポトーは引用している。本作がジェンダーフリーの唱えられる80年前の映画であることを思うと、ヒッチの偏執的かつ多面的な捉え方は、多様性時代の今でこそもっと評価されてしかるべきだと思える。