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特集「ベストコレクション」

2018年8月9日

特集「恋歌が聞こえる風の盆/8月のベストコレクション」⑨
彼女が目覚めるその日まで(2017年 事実に基づく映画)

監督 ジェラルド・パレット

出演 クロエ・グレース・モレッツ

シネマ365日 No.2566

脳が燃える 

8月のベストコレクション

 難病ものです。スザンナ・キャラハン(クロエ・グレース・モレッツ)21歳。ニューヨーク・ポストの記者は、理由の分からない症状に悩まされるようになる。物忘れが生じ、大物議員の取材で大失態。手足のしびれを覚えふっと気が遠くなる。MRIの結果は異常なし。脳卒中の疑いも血栓も問題なかった。ある日地下鉄の駅でしゃがみ込み、病院で激しい痙攣を起こす。父親と母親は離婚、別居中の父は付き合っている女性と婚約したばかりだ。母親が家に引き取るが、帰宅すると服を着たままプールに浮いている娘を見つけて愕然とする▼スザンナは脈絡のないことを口走るようになる。「スティーヴン、彼のせいよ。若すぎる愛ってとても疲れる。彼にそう言わないと。ちがう、ポスト紙のせいよ。我慢できない。学校に戻ってやり直す。ちがう、そうじゃない。ニューヨークのせいよ。あの街で暮らすのは無理」そして激しく痙攣する。出勤したらいきなり自席で大声をあげ「すごく幸せ、ハッピー」と叫んで喋りまくる。「極度の躁とウツの深刻な混合状態の徴候がある。向精神薬を出します。神経系も MRIも、脳神経もすべて正常なのです。アルコール摂取量が多く禁断症状が出ています」。母親が叫ぶ「冗談でしょ。娘はここ2週間、飲んでいません」。とうとう医師は「精神科に転院すべきです」▼女医の一人が恩師を訪ねた。「躁状的状態から始まり、妄想症、感情の爆発、全身痙攣をきたし、悪化しています。症状が起きる前は完璧な健康状態でした。このままでは精神病院へ送られます。双極性障害か総合失調症とするのは簡単ですが、私のカンでは違うのです」。医師のナジャーは弟子の懇請に折れ「診てみよう」。スザンナは硬化症を起こし、指が開かなくなっていた。「鼻を触ってみて」というナジャーにコブシで触る。何枚もの画像を見ながらナジャーは「何か見落としている」とつぶやく。時計の絵を描いてみてくれ、と頼んだナジャーに、スザンナが描いた絵は数字が一列の縦に続いた「時計」だった。「脳の右半球が損傷し炎症を起こしています。炎症の原因が何か答えを見つけねば。急がねば。娘さんを失いつつあります」映画はサスペンス調を帯びてきます▼結果が出た。「抗NMDA受容体脳炎です。自己免疫疾患で抗体が脳内の重要な受容体を攻撃する。簡単に言えば脳が燃え(ブレイン・オン・ファイア=これが原題)娘さんは自分の体に攻撃されています。治療します。まだ早い段階ですから、以前の認知能力の90%まで戻ります」ナジャーはスザンヌに「よくなりますよ。あなたを見つけた」。医者を選ぶのも寿命のうちとは、これを言うのだろう▼両親もボーイフレンドもえらかったと思う。「娘は精神病なんかじゃない」「あの子の瞳は何かを訴えたがっている」「彼女が治るまでここにいます」ガンとして精神異常を拒否した。スザンナは「抗NMDA受容体脳炎」という極めて珍しい疾患の217人目の患者だった。「私は幸運だ。多くの病人が見失われる世の中で、ナジャー医師のおかげで私は発見された。長い歴史の中で双極性障害や総合失調症と診断され苦しんだ人はどれだけいたか。すべてゼロからやり直し。歩き方、食べ方、喋り方、娘としてのあり方、文章の書き方、スティーヴの愛し方。珍しい病気について訊かれて、曖昧に答えていたが、自分の病気の謎に取り組む準備ができてから、はるかに強くなった。答えを見つけるのだ。その答えで救われる命があるだろう」。スザンナはポスト紙の上司の勧めで手記を書くことになった。彼女は病気の啓蒙に勤め、2015年スティーヴと結婚した▼クロエと言えば「キック・アス」のヒット・ガール、「キャリー」の超能力少女、「アクトレス」ではベテランを小馬鹿にするアイドル女優、「ダーク・プレイス」は反抗期の娘と、一筋縄でいかないキャラが印象的でしたけど、今回は人生を取り戻す若い女性を好演。プロデュースにシャーリーズ・セロンが入っています。とりあえず、治ることになってよかったです。