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特集「ベストコレクション」

2018年8月12日

特集「恋歌が聞こえる風の盆/8月のベストコレクション」⑫
ブリムストーン(上)(2018年 社会派映画)

監督 マルティン・コールホーヴェン

出演 ダコタ・ファニング/ガイ・ピアース/カリス・ファン・ハウテン

シネマ365日 No.2569

サイコ・変態・強姦男

特集「恋歌が聞こえる風の盆/8月のベストコレクション」

 マルティン・コールホーヴェン監督は「フェミニズム映画にする意図はなかった」と述べている。してみると本作は意図せずしてフェミニズム映画になったわけか。そうでもないだろうけど、監督はヒロイン、リズ(ダコタ・ファニング)への救済がないこと、男性社会への異議申し立ての術もなく、女性の剥奪された権利とその告発に焦点を当てたことが、表向きのフェミニズムを意図しなかった理由と思えます。劇中叙述される性的虐待、近親相姦、売春、妻と娘への暴力を女の宿命として甘んじて受け、脱出の方向も方針も持てなかったこと。リズはたった一つ残された自己主張として死を選びます。しかし彼女の後に続く現代の女性にも、「社会のリズ」として根強い、差別的な価値観と戦わねばならない運命にあります▼「ドリーム」あるいは「ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜」のように、白人優位社会を冷ややかな批判で語る映画が作られ、差別問題に直面するアメリカで、ヒーローは冷や飯を食っている。さかのぼって彼らの晴れやかな舞台だったアメリカ開拓史時代、男性の陰で女性は何をし、何をさせられていたかを監督はこの映画であぶり出し、フェミニズムの逆照射に成功しています。特筆すべき人物はリズの父親である牧師(ガイ・ピアース)です。殺しても飽きたらぬ、とはこういう人物を言うのでしょう。リズが彼を焼き殺すシーンに至って(やったぞ、ザマ見ろ)と溜飲を下げたのは私だけでしょうか。彼の変態と暴力は嫌悪しか呼ばない。しかも武器は聖書です。ゆがんだ性格、残虐な嗜好をキリストの言葉でねじ曲げ、許されない行為を、聖書を引用することで正当化します。幼いリズは母親(カリス・ファン・ハウテン)に訊く。「どうして母さんばかり苦労するの」「女の宿命だからよ」「誰が言ったの?」「聖書よ」「不公平だわ」。おっしゃる通りよ▼牧師は初潮を迎えた娘を「もう一人前だ」と意味ありげな視線で見つめ「成熟した大人の女にはない、少女でなければ果たせない義務がある」。母親「間違っています。あの子を見るあなたの目、あなたの娘よ。罪です」。牧師はどうでたか。「そうではない。男が我が娘に情熱を抱き、結婚も罪ではない。娘が花の年が過ぎたら望み通りせよとある」「汚れた豚ね」。牧師は妻を殴り飛ばし、娘の見る前でむち打ちの刑にするサイコ男です。妻が口答え出来ないように、鉄のマスクをかまし、教会に連れて行くと、牧師でありながら妻のできの悪さを矯正出来ないことが恥ずかしい、このように処置したと見せびらかす。妻は席を外し、牧師の説教の最中、首に縄をかけたまま天窓から身を投げ、自殺します。サイコ男はリズを強姦する。着のみ着のまま家を出たリズは荒野をさまよい、行き倒れたところに放浪の民家族が馬車で通りかかる。母親は助けようとするが、父親は売春宿に売り飛ばす。家にいるも地獄、家を出ても地獄、リズは運命の業火の中に放り出された。言い忘れましたがリズは舌を切っています。売春宿で婚活していた仲良しの娼婦の結婚が決まり、「姉妹だということにして、あなたも一緒に行こうよ」。娼婦など人間扱されない世界でした。キスを強要する客の唇を噛んだという理由で、彼女は舌を切られ、手話を覚えてリズと話していました。顔描きというのは指で相手の顔をなぞる遊びです。リズは彼女の顔をやさしくなぞってやるのが常だった。後先になりましたがこの娼婦の名前がリズで、ダコタ・ファニングのもともとの役名はジョアナです。殺されたリズになり変わり、ジョアナは婚活先の男の元に行きます。リズは舌を切られていましたから、ジョアナも自分の舌を切ってしまうのです。後にも先にもたった一度もたらされたチャンス、壮絶な脱出でした。