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特集「ベストコレクション」

2018年8月13日

特集「恋歌が聞こえる風の盆/8月のベストコレクション」⑬
ブリムストーン(下)(2018年 社会派映画)

監督 マルティン・コールホーヴェン

出演 ダコタ・ファニング/ガイ・ピアース/カリス・ファン・ハウテン

シネマ365日 No.2570

函の最後にあるもの 

特集「恋歌が聞こえる風の盆/8月のベストコレクション」

 リズとなったジョアナは村で助産婦となり、村に溶け込み平穏に暮らしていた。娘も生まれた。夫の連れ子のマシューは継母に反抗的だが、夫は穏やかに妻の味方をしてくれる。そこへ教会に赴任した牧師が、父親の強姦男ではないか。何故彼はリズをつけまわすのか、娼婦時代にも娘を見つけ出し、娼館を借り切って指名するに及ぶ。本物のリズはジョアナをかばったばかりに殺されたのだ。「俺は呪われた男だ」と牧師はいう。だったら勝手に地獄に堕ちればいいだろ。思うに、この手の男って、いうことを聞かない強い女を徹底的に征服したいのね。リズは自分を嫌って逃亡したような女だ。地の果てまでも追いかけ、支配することが神に仕える者の義務だと信じている。一言で言えば狂っている▼牧師はじわじわとリズ包囲網を狭める。リズになつかない息子の味方をする。人のいい夫は不信感をあらわにする妻に「牧師は神の子だ」と諌める。リズは、母親か赤ん坊か二者択一を迫られたお産で、母親を助けた。牧師はその夫に、リズが赤ん坊を殺したと吹き込み、夫はリズの家を襲撃する。羊を殺す。妻の警戒が正しかったと気付いた夫は、祖父の家に逃れるよう指示するが、忍び込んだ牧師が刺殺する。息をひきとる寸前「なぜだ」と訊くと「リズがお前を愛しているからだ」。聖書改ざん男はもはや狂気にどっぷり。リズの家に放火し焼失させる。リズは娘サムを抱き、マシューは男の子らしく、母親と妹を守って御者台に座り、雪の山道に馬車を進める。「母さん、あの男はあきらめるかな」リズはきっぱり(いいえ)。かわいそうにマシューは射殺されるのだ。倒れたマシューに走りよろうとしたリズや妹に「僕に近付くな」といい▼祖父の家に着いた。リズは銃を取る。「本気か?」と訊く義父に(サムのそばにいて。これは私の戦いよ)と手話する。屋外を見て回り小屋に戻ると義父は殺されていた。腸を出して首に巻きつけるという残酷なデモンストレーションだった。牧師はリズを縛り上げ娘を痛めつけた。綱を外したリズはランタンを掲げ牧師を照らす。無表情にランタンの牧師の足元に投げる。めらめらと炎が牧師に駆け昇っていった。これで万事解決したはずだった。新しい家を建てる槌の音が響き、リズが大工たちに指図している。川向こうから男たちを乗せた筏が来る。みればリズを「子殺し」と逆恨みして家を襲った男が保安官になり、リズが娼館の経営者殺しの犯人としてお尋ね者になっていること、賞金2500ドルがかけられている張り紙を示す。筏に乗って連行されるリズに、建築中の家の前で遊ぶ娘が見える。クズ男を殺したのは本物の元リズだった。リズは筏から足も手も枷(かせ)をはめられたまま身を投げる。男たちは川面に発砲する。どこまでも救いがない。娘は成長し回想する。「生きていくうちに面影は薄れる。残るのは記憶だけ。母をよく覚えている。戦う女性であり決して服従しなかった。沈みゆくあいだ、何を思っていたのだろう。私のことであってほしい。強く育つと信じてくれていたらいい。いつも母を近くに感じる。私を見ている。守ってくれている」▼リズの生涯は過酷だった。監督は時代と社会に「牧師」という仮面をつけさせ、女性に強制した服従と暴力と、それに屈しなかった女性を描いている。リズが舌をなくし会話が奪われたことは象徴的だ。女は発言も許されなかった。つらい映画だが、マイノリティはだから行動すべきだ。現状を疑うこと、公平を求めること、服従の強制を拒否すること、そして希望することを。パンドラの函の最後にそれはある。