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特集「ベストコレクション」

2015年11月17日

特集「星の降る夜は/ベストコレクション」③
フォックスキャッチャー(2015年 事実に基づく映画)

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監督 ベネット・ミラー

出演 スティーヴ・カレル/チャニング・テイタム/マーク・ラファロ

シネマ365日 No.1571

強き母 

特集「星の降る夜は/ベストコレクション」

主役の3人が、3人とも痛ましいのよ。ロサンゼルス五輪(1984)レスリング競技の金メダリスト、マーク・シュルツ(チャニング・テイタム)と兄のデイヴ・シュルツ(マーク・ラファロ)。マークは小学校の講演会の講師などで講師料を稼ぎ、兄はレスリングのコーチで生活している。決して裕福ではないが、妻と家族に恵まれ幸福な兄に比べ弟は沈滞気味だ。そこへジョン・デュポン(スティーヴ・カレル)からの誘いがくる。「デュポンって何者だ」とマークが聞くくらい、格差の激しい、階級社会のアメリカでは「デュポン財閥」とは雲の上の世界なのだ。その御曹司ジョン・デュポンが、自ら創生したレスリングチーム「フォックスキャッチャー」の責任者にマークを招聘する。マークは喜んで受諾し、兄と袂を分かつ。ふたりは仲の良い兄弟だった。金メダリスト同士である。練習シーンの型の取り方や動きの速さなど、一瞬の技に息をのむ。もともと弟の屈折した性格に懸念をもつ兄は、自分のそばを離れることを心配するが、弟は「兄離れ」がしたかったのかもしれない▼ジョンはスポーツ振興に尽力し、有り余る財力で多大な寄付をし、スポンサーとして貢献していた。フォックスキャッチャーは最新のトレーニング設備を備えた広大なデュポン屋敷の邸内にある。責任者として期待されるマーク。ジョンはソウル五輪で金メダルを取ると豪語する。でもね〜ジョンって人は普通ではないのよ。とにかく人を自分に注目させたい。何不自由なく大きくなって、欲しいものはなんでも手に入るのだけど、友だちができなかった。御者の息子をともだちだと思ったが「母親に金をもらって」自分につきあっていただけだった。女もいない。彼は独身である。恋と友情の欠乏感のなかで人となったのね。彼にすれば慈善活動だって、金で自分を誇示するようなもの。みんな金は有り難がるけど、本気で彼を大事にし、尊敬しているわけではない▼マークがいかにジョンに心酔しているかを人前で示したいジョンは、スピーチで、こういえ、ああいえ、と指図する。ジョン・デュポンは「鳥類学者、収集家、博愛主義者」と一言一句間違いないよう何度も言い直させる。普通の神経じゃない。このあたりでマークは(こいつ、どうもやばそうだ)と気がつけばよかったわね。レスリングって肉体と肉体が接触し摩擦し、激震する競技でしょう。本作でも、そのものズバリのシーンはないけど、男二人の性的関係を暗示するシーンは多いです。ジョンの神経が不安定であることに加え、なんでも自分の思うようにやれてきたから、ちょっと違反すると気に入らない。マークを「サル」よばわりして侮辱しビンタをくらわす。ついにはマークの神経を逆撫でするように、兄のデイヴをフォックスキャッチャーに招く。マークは自分の居場所をなくしてしまう。でもデイヴがいい兄貴でしてね。子供のころ貧しい家で育った、いじめられたけど助け合ってレスリングをやった、金メダルをとった、なのに満足感のないマークと、つつがない市民の幸せに満足しているデイヴが対照的だ。やけになって食べまくり、試合前の計量にウェイトオーバー。兄貴は90分で弟の体重を5.5キロ落とす離れ業をやるのだ。トイレで吐かせる、分厚いビニールのトレーナーをかぶせてランニングマシーンを走らせる、マークはヨレヨレで計量をパスする。ふたりの兄弟愛を、ジョンは暗い目で見ている▼結論はジョンがデイヴを射殺するのよ。理由もなにも映画は説明しない。雪の積もった日だった。敷地内のデイヴの家に車を乗り付けたジョンは、いきなり発砲する。運転手は腰を抜かして車から転げ落ちる。デイヴの妻は卒倒しそうになりながら、気丈に救急車を呼ぶ。なにがなんだか、だれにもわけがわからない。ジョンは逮捕されるがデイヴは死んでしまった。ジョンは総合失調症と診断され獄中死する。マークは生き残り、1988年引退、オレゴン州でレスリング教室を開催した。デイヴは死後レスリングの殿堂入りをした。ジョンを夢と虚栄にとりつかれた男といえばいえるかもしれないけど、つまるところ、彼は愛と尊敬がほしかったのね。たぶんお母さんに充分愛された思いが、満足感がないのでしょう。母親ジャン・デュポンに扮するのがヴァネッサ・レッドグレーヴだ。車椅子で登場する。母親がフォックスキャッチャーの練習を見にくるシーンがある。スタッフたちは、ジョンに花をもたせようと、一流のレスリング選手をジョンがコーチしている場面を用意する。でも母親は(ふん、みえすいたことを)というふうに、さっさとジムから行ってしまう。冷徹なまでのこの母親にかかったら、よほど強靭な神経でない限り、いじけちゃうの、無理ないわね。チャニング・テイタムが筋肉男を脱出、影のある繊細な男を造型しました。

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