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特集「ベストコレクション」

2015年11月22日

特集「星の降る夜は/ベストコレクション」⑧
ライフ・アクアティック(2005年 ファンタジー映画)

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監督 ウェス・アンダーソン

出演 ビル・マーレイ/アンジェリカ・ヒューストン/オーソン・ウィルソン/ケイト・ブランシェット/ウィレム・デフォー/ジェフ・ゴールドブラム

 

シネマ365日 No.1574

残念なウェス映画

特集「星の降る夜は/ベストコレクション」

ウェス・アンダーソンは大好きな監督なのだけど、コケたらしい、この映画。無理ないと思う。ひとつも面白くないもん。面白くない水源をたどっていくと、登場人物が嫌われキャラなのだ。とくにビル・マーレイの船長がね。ウェスはときどき、どうにもこうにも人好きしない中年、もしくは初老の男を登場させ(それがほとんどビル・マーレイ)、彼をめぐる人間模様を織り込んで映画をふくらませていくけど、本作の失敗にこりてか、以後あんまり複雑な、というか、実際は心やさしく繊細なのだけど、傲慢・ひとりよがり・独善・自分勝手・経済力ゼロ・失敗を人のせいにする名人、という毒吐きのため、いいところが帳消しになるという人物をあまりつくらなくなった。最新作の「グランド・ブダペスト・ホテル」でも、わりとみな性格がおとなしかったものね。変人ではあったけど▼それにしても錚々たる出演陣ですね。ほとんどウェス一家だけどさ。これだけの役者がそろってできの悪い映画というのも、さびしいものね。もちろん並の監督じゃないから(うわ〜、やっぱり、これがウェスだよね〜)と思うシーンはいっぱいあるけど、おしなべてカラ回りが多いのよ。たとえば、ケイト・ブランシェットの海洋雑誌記者はなにゆえ妊婦で現れるのか。好きな男に妻がいることが、ドラマの進展になにか関係あるのか。なかったですな。船長の息子であると名乗るオーソン・ウィルソンはホントに息子か否か、最後まではっきりしないのはなぜか。要は船長が独身で妻には去られ、ヒシヒシ孤独を感じているので、本物でも偽物でもいいから息子がほしかったということね。迫力ないわね。中途で海賊が船長の「ベラフォンテ号」を襲撃するが、このアクション・シーンが噴飯物。格闘技の覚えのない船長が、拳銃を乱射して海賊一味を撃退する荒唐無稽ぶり。多少の「むちゃくちゃ」は映画のスパイスだとしても、船長の暴れるシーンがひとつも楽しくない。もっとも苦手なアクション・シーンに手を出すなんて、ウェスはどうかしている。おかげで、ベラフォンテ号の冒険がだんだん退屈になってくるのはどうしようもなかった▼ウェスっていう人は、物語があるようでない、ないようである、そんな浮遊する現実の1シーンを切り取るのがものすごくうまい人なのよ。「ダージリン急行」だって、粗筋に関係ない葬式やら、はるばるヒマラヤの修道院までたどりつけば、目的の母親は「お前たちと暮らすのはイヤだ」と姿をくらましてしまうとか、本来むなしいはずのシークェンスを額縁に入れて、きれいな絵葉書にしてしまう。その手法がバチッと決まったのが「ムーンライズ・キングダム」だった。詩的でユーモアがあって、登場人物は平凡でどこにでもいる、わかりやすく、人情家たちだった。毒吐き役はませたガキたちだったが、最後はホロリとさせて収束した。本作がなぜ気に入らないか、はっきり言えばウェスがいちばん得意とする、親切で誠実で、平凡で、真面目な人たちのよさ、美しさを表す人物らの輪郭がぼやけていることだ▼おっと、いや、まて。早まってはいかん、この人がいたぞ。ウィレム・デフォーが扮する船長の部下、クラウスだ。どこからみてもバカ社長なのに、なぜか彼(彼女)が好きで業務に精励する、そんな宝物のような社員がどの会社にもいるものだが、クラウスがそう。なんで船長は自分の名前をいちばん先によばないのだ、とか言ってヘンネシを起こすような純情な男である。彼は船を熟知したベテラン乗組員。海洋生活のエキスパートにかけては船長にも劣らない。そんな男が「ベラフォンテ号」のユニフォームのひとつ、紐付の赤いキャップを後生大事にかぶっている。船長の妻がアンジェリカ・ヒューストンだ。うだつのあがらない夫は、海洋ドキュメント映画製作のため、妻の実家の資本に依存しっぱなし。見切りをつけた妻は元夫とよりを戻す。元夫というのがジェフ・ゴールドブラムで、彼が「ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク」に出演したとき、恐竜と間違えた役者である▼何だか(やっぱりウェスね〜)モードになってきたのは自分でもシャクだが、このシーンでしめくくろう。寂しがり屋も不倫記者も、二言目に差別発言をするいい加減なやつも、命を落とした仲間たちの魂もいっしょに乗せ、生き残ったクルーたちは玩具のような潜水挺で海底にもぐる。仲間を食い殺したにっくき人喰鮫が探知されたのだ。この巨大サメは全身が金色のマダラ模様。深海を泳ぐ姿はネプチューンの変身かとみまごう、美しき怪物ぶりだ。このサメが潜水艇の正面で口をパックリ、ジョーズのド迫力でラスト。ケイト・ブランシェットが産気づかなかったのがふしぎ。

 

 

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