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特集「ベストコレクション」

2015年11月23日

特集「星の降る夜は/ベストコレクション」⑨
ザ・ブリッジ 国境に潜む闇(2014年 サスペンス映画)

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制作総指揮 メレディス・スティーム/エルウッド・リード

出演 ダイアン・クルーガー/テッド・レヴィン/デミアン・ビチル

シネマ365日 No.1575

脈々と強い女の遺伝子

特集「星の降る夜は/ベストコレクション」

スウェーデンの人気シリーズのアメリカ版です。「エピソード1」の段階で決めつけるのは早計かもしれないけど、どうもイマイチね。タルイのだわ。ヒロイン、ソニア・クロス刑事にダイアン・クルーガー。ソニアは姉とふたり暮らしだった。姉が18歳のときレイプされ殺された。遺体確認にきたのが15歳だったソニア。立ち会った刑事がハンク(テッド・レヴィン)だった。不憫に思ったハンクはソニアをひきとり、妻とふたり、親代わりになって育て彼女は刑事になる。事件の後遺症で、いわゆるアスペルガー症候群だ。自分にひきこもり他人とコミュニケーションが取れず、交渉事が苦手。そのかわり異常な集中力を示し、人の思惑を平気で無視する。それゆえ周囲と軋轢を生じるが、上司であるハンクがいつもかばっている▼事件の舞台はアメリカとメキシコ国境にかかる橋。橋のちょうど国境線にあたる場所に、上半身と下半身が分断された女性の遺体があった。アメリカ側からはエル・パソ市警のソニア・クロスが、メキシコ側からはチワワ州警察の、中年のマルコ・ルイス刑事が担当する。捜査が進むに連れ、メキシコがかかえている暗い問題が浮き彫りになる。麻薬カルテル、移民、売春、銃器密輸、人身売買、人種差別。メキシコ側の町ファレスは犯罪が多発し、夜にもなると女ひとりで歩けない町だった。ふたつの国にまたがる死体は上下別人だった。身元の割り出しによって上半身は、移民に反対だった女性判事、下半身が娼婦とわかる。橋の上の事件捜査と同時並行して、いくつかの事件と登場人物が現れる。夫の死後、屋敷の地下室からメキシコへ続くトンネルを発見して危険なビジネスに手を染める未亡人、砂漠のコンテナに住み、人身売買や売春や虐待から、少女たちを守ろうとする謎の福祉職員、過去の浮気がばれて妻アルマに逃げられるマルコ。犯人からなぜかいつも電話で指示を受ける、地元新聞記者ダニエル。過去の事件があきらかになるにつれ、誘拐と殺人がくりかえされる▼物足りない最大の要因は、ソニアのキャラです。アスペルガー症候群であってもいいのだが、その描き方が平板なのだ。たとえば、彼女が空気の読めない女だという具体的なシーンはこうだ。徹夜で仕事し、真夜中などうと夜明けだろうと相手を訪問する、電話をかける、招待された食事の席で「まずいわ」と言う。署内のデスクであたりにだれがいようと気にせず着替える。「おはよう」とあいさつされても返事をしない。セックスしたくなったら男を逆ナンパ。部屋につれこんですませたあとは、ベッドの上で資料の検索を始める。マルコが女好きであり、愛人を作ったことが理解できない。彼女の倫理観は鉄壁である。ルールと規則最優先。令状がないと決して踏み込まない。こういう屈折した、後ろ向きの積極性や攻撃性が、ヒロインの強みになっていることをもっと描きこんでほしかった。ヒロインの「反社会的人間」ぶりが弱いのだ▼シリーズもののヒロインで、ソニアに性格がよく似ているのは「レバリッジ〜詐欺師立ちの流儀〜」のパーカーだろう。感情表現に乏しく、他人と連携するのが苦手、会話も下手、本音をいい相手を怒らせる。しかし彼女にはあらゆるセキュリティを通り抜ける技術、高層ビルから躊躇なく飛び降りる大胆な行動力で度胆を抜く。「ヴェロニカ・マーズ」はごく普通の高校生だった主人公が、親友(これがアマンダ・サイフリッド)の殺害を期に「毅然として復讐することを誓った女」。主演のクリスティン・ベルはこれで上昇気流に乗り「アナと雪の女王」で、アナの声をやった。「LOST」のケイトを加えても好い。古典となったエレン・リプリー(「エイリアン」)やアリス(「バイオ・ハザード」)や、グレイシー・ハート(「デンジャラス・ビューティ」)、はたまたニコリともしなかったカリスマ弁護士パティ・ヒューズ(「ダメージ」)の遺伝子を彼女らは脈々と受け継いでいる。どんな遺伝子か。向日性なのである。みな破壊的で鉄面皮で、うぬぼれが強く冷血に見えるが、行動の軸はヒューマンで利他的で、日常の人間関係や賞賛や注目を回避し、結果として他人からも返される無視や無関心を受け流す。ソニアは仕事熱心で他人に無関心なわりにはいつも助けられているし、自暴自棄になったマルコによりそうシーンに至っては、おめでとう、ついに寝たのかと思ったら、ヘタレ男の手を一晩握っていただけではないか。いつ介護士になったのだ▼ソニアは少女誘拐・連続殺人の元凶が、じつはファレスの警察内の集団暴行に関係するとつきとめるが、メキシコ側の事件には手が出せない。上下分断殺人の犯人は元FBIだった。彼の妻はマルコの愛人で夫との中は冷えきっていたが、夫は妻と10歳の息子を愛していた。彼にとって家族はすべてだった。妻子の車に衝突し、逃走した車に同乗していたのが地元紙の新聞記者だったと、徐々に事件の糸はたぐられていくが、ソニアはこのまま、じくじくと、ときにやさしくときにぶっきらぼうで、ときに人を傷つけ、やっていくのだろうか。ハンクはまもなく定年だ、署内にソニアの味方はいなくなり、マルコは息子の仇をうちに、刑務所に押しこみ殺人でもするのか、どういう展開になるとしてもいいが、ソニアに猛特訓させてカンフーの達人にするとか、射撃の名手にしたてあげるとかして、せめてどこかにヒロインらしいカタルシスをつくってくれ。

 

 

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