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特集「ベストコレクション」

2015年11月25日

特集「星の降る夜は/ベストコレクション」⑪
おやすみなさいを言いたくて(2014年 社会派映画)

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監督 エーリク・ポッペ

出演 ジュリエット・ビノシュ/ニコライ・コスター・ワールド

シネマ365日 No.1580

物語る顔 

特集「星の降る夜は/ベストコレクション」

アイルランドにしてこうなのね。世界経済フォーラムが毎年発表している、グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート(男女平等指数ランキング)によれば、1位は6年連続アイスランドで、最も男女の格差が少ない。どんな分野での格差を測定するのかというと「給与・専門職での雇用/高等教育への就学/寿命と男女比/意思決定機関への参画」だ。日本は142カ国のうち104位。本作のヒロイン、レベッカが属するアイルランドは、8位という高順位ですら、こういう問題を避けて通れないのね。どういう問題か。仕事をもつ妻と夫の葛藤です。レベッカ(ジュリエット・ビノシュ)は紛争のある地域で写真を撮り続ける報道写真家。ケニヤ、スーダン、アフガン、イスタンブール。彼女の写真は世界的な評価を得ている。一方で危険にさらされ、いつ命を落とすかわからない母親を待つ家族は、気持ちが安らぐ間もない、生物学者の夫は心が疲れ、娘たち、とくに思春期の長女は、不在の母親に心を閉ざす。自爆テロの現場で爆発にあい、命の危機にさらされたレベッカは一時帰国。夫が言う「もう君とは暮らせない」▼ヘンなの。レベッカは、結婚するとき戦場写真家は現場でいつ死ぬかわからないって、引導をわたしておかなかったの? たとえそうだとしても、戦場を写すのが彼女の仕事だから、家にベッタリ貼り付いて、母親も主婦もやっておれないのは、旦那にしたらわきまえておくことでしょ。レベッカはいい母親だと思うわ。子供たちには「誕生日にいっしょにおれなくてごめんね」と手紙を書くし(メールではない、しっかり体温の伝わる肉筆の手紙だぞ)写真は送るし、せいいっぱい愛しているメッセージを伝えている。次女は子猫を可愛がるやさしい明るい子だ。つまり妻が、パートナーがいないことに、パパがへこたれちゃったのね。それが感じやすい時期の長女に反映するのよ。男一匹、しっかりしろ! とレベッカは言ったか。いいえ。それどころか、わたし戦場には戻りません、写真もやめます、家族がいるから「家に入ります宣言」よ▼この映画のオープニングは涙がこぼれる。怒りがこみあがる。レベッカが取材する紛争地域の女性たち。レベッカの長女と同じくらいの年の女の子が、体に爆弾を、自爆テロ装置を装着している。手伝うのは、たぶん女の子の母親や家族だろう。女たちは悲しみに沈み、言葉もなく黙々と手を動かす。女の子は胸に、背に、腹に巻きつけられる爆弾の重さに耐える。だれでも叫んでしまうだろう。この子が命を捨ててよしとする、どんな大義もクソもあるものか。だれでもいい、いますぐ戦争をやめさせろ…レベッカの報道はそんな叫びを呼び起こす力がある。レベッカが金輪際、戦場には戻らないと言っても旦那は「信じない。君はいつだってつぎの撮影地に向かう準備をしている」疑い深いのよね〜。まあ「アイルランドの誇り」とまでいわれる写真家を妻にしたのだから、仕方ないとはいえ、夫にとっちゃ、まるで自分だけ、貧乏クジ引いたみたいに思えるのね。旦那は顔までショボショボになって、かわいそう。8位でこうよ。104位の日本ならどうでしょう。夫がレベッカの荷物をほうりだし、出て行けというシーンは、拍手喝采ものかもね▼長女は学校で友だちが持ってきた写真を母に見せる。黒人の女の子だった。「マリーだわ」とレベッカはいい、武装勢力が女性を強姦し民間人を殺し、子供を拉致して兵士や性の奴隷にする実情を教える。「いちばん小さかった子は9歳よ。あのとき世界はコンゴよりパリス・ヒルトンのゴシップに夢中だった。腹がたった。1998年に戦争が始まり500万人が死んだわ。第二次世界大戦以後の戦争で最悪の死者数だった」。長女は課題のレポート作成のため、母親といっしょにアフリカの難民キャンプの取材に行く。そこで襲撃にあう。レベッカは危険な目にあわせたことを娘にあやまり、父親は安全なはずだったのに話がちがうと怒り、長女は母親を拒否。レベッカは「あなたがいつか大人になったとき、抑えきれない何かが自分のなかにあるのがわかる。わたしはとめようのない何かを始めてしまったの。終わらせ方を探さないと」「いつ終わるの」と冷たく聞く娘。「家族の生活を壊してしまったのね。いつかわたしを許してほしい」と謝っている母に「ママが死んじゃえばみなで悲しんでそれで終わりよ」だって。腹の中では(終わらせ方なんて、みつけるはずないでしょ)と読んでいるのよ(笑)▼いったん中止となったレベッカの写真集が出版されると決まった。最新作がほしいから、いますぐ現地に飛んでくれという要請だ。レベッカはカメラを取る。空港へ。でもそこで引き返すのだ。学校で長女のアフリカ報告会があった。「母は写真家です。問題のある地域に行きます。世界から見捨てられている場所へ写真を撮りに。いっしょにスーダン国境のキャンプに行きました。毎日5000人が流入し、そのほとんどが孤児です。最初は悲しんでいる人をなんで撮るのかヘンな気がしましたが、彼らはそれを望んでいるのです。でもどれだけ撮っても充分じゃない。だれかが撮り続けるべきで、そのだれかが母でした。キャンプで戦闘があり、母はわたしの安全を守り、命がけで写真を撮り続けました。あの子たちは母を必要としています。わたしよりずっと」…レベッカが戻ったのは別れを告げるためだ。次女が寝かしつけに来たレベッカに言う。「ママはずっとママよね」「そうよ。いつだって」どこにいてもと言いたかっただろう。夫とはこうだった。アイルランドの荒涼とした海辺。「ここはいいところね」とレベッカ。「そうだな」と旦那は気のない返事。妻に「気をつけて」と言いスタスタ離れる。こりゃまあ、遠からず離婚だな▼ジュリエット・ビノシュが写真家となる映画に「存在の耐えられない軽さ」がありました。プラハに侵入したソ連軍の戦車や、レナ・オリンのヌードを撮っていました。あれからざっと四半世紀。ビノシュは51歳になりました。あどけなさの残っていた当時より、頬がそげてシャープに、きれいになっています。ありふれた家庭内トラブルを、劇的なシチュエーションに盛り上げていくのは、時としてアップになるビノシュの物語る顔です。意味ありげに変化する、複雑で繊細な感情をたたえています。こういうのを役者の顔というのでしょうね。

 

 

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