女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss
  • ブックマーク

特集「ザ・クラシックス」

2015年12月2日

特集「ザ・クラシックス3」②
愛と憎しみの伝説(1981年 伝記映画)

Pocket
LINEで送る

監督 フランク・ペリー

出演 フェイ・ダナウェイ/ダイアナ・スカーウィッド

シネマ365日 No.1587

フツーじゃない女 

特集「ザ・クラシックス3」

悪評ふんぷんたる映画として、本作はゴールデンラズベリー賞「1980年代最低作品賞」までもらった。本作でハリウッドの大女優ジョーン・クロフォードを演じたフェイ・ダナウェイは、演技が大ゲサでほとんどギャグであり、彼女の女優生命を破壊したとか、映画界の内幕の暴露は良識を疑うとかさんざんだったけど、全然そんなことはないです(笑)。人はだれでも落ち目になった過去の成功者を見るのがうれしいし、特にそれが尊大極まる大女優であった場合「ザマみろ」と溜飲を下げるのは、ほとんどが彼女に煮え湯を飲まされてきた男たちだろう。フェイの演技だって、ジョーンの特徴をとらえるためのメーキャップが歌舞伎の隈みたいだったのは認めるが、それだけの話だ。フェイは凡庸な女優ではない。デフォルメしなければ引きずり出せない真実があることを知ったうえで誇張している。彼女の鬼気迫る演技を「ラズベリー賞」とした選者たちは、本気でこの映画をみたのだろうか▼ジョーンは子供の頃「貧しくつらい暮らしだった。母親はシーツよりひんぱんに男をとりかえ、だらしない人間のクズだった」その母親が勤めていたのがクリーニング店で、店で使う針金のハンガーをジョーンは死ぬまで憎悪した。劇中養子のクリスティーナ(ダイアナ・スカーウィッド)が、衣装をハンガーにかけているのをみつけ、クローゼットから床に叩きつけるシーンがある。オープニングはジョーンの異常な洗顔である。ブラシで肘を磨き石鹸で顔をこすり、砕氷でいっぱいにした洗面器に顔をつけ肌をひきしめ、それからシャワーに行く。エステだとか美容だとかいうより、修行というべきストイックな習慣である。ジョギングするジョーンを車で伴走する秘書のキャロル・アンは「この努力をファンにみせたい」。ジョーンは「社長にみせたいわ」というのもいい役がなく、人気は下降中、ジョーンは日々鬱屈していた▼本作はジョーンの死後養女のクリスティーナが書いた「親愛なるママ」が原作だ。クリスティーナが被った心身に及ぶ仕打ち、そこだけみれば虐待というしかない。ジョーンは生後1ヶ月のクリスティーナを養子としたとき涙ながらに誓うのだ。「この子に完璧な暮らしをあげるわ」。ママのしつけは厳しく逆らうことを許さない。自宅のプールで泳がせ「疲れたわ、ママ」と娘が言っても「逃げるの? ティナ。競争に勝つ方法を早くから身につけて置かなければだめよ」。ティナが女の子らしく化粧台で装っていると「人の引き出しを勝手にあけて、しかもこの髪はなによ」「ママ、セットローションよ」「口答えは許さない、切ってやる」泣き叫ぶティナに容赦なく鋏でジョキジョキやってしまう。夕食の肉料理を食べるまで「席をたつことは許しません」。ティナは夜が更けてもひとりテーブルに残され、やっと出たママの指示は「皿を冷蔵庫にしまいなさい」。翌朝ティナが朝食の席につくと、前夜の肉料理がまたもや置かれているのだ▼ティナも年頃になる。ボーイフレンドもできる。初めてキスしているところを友達に告げ口され、ママは学校にねじ込む。「きちんと育つようにここへ入れたのに、ここは未成年者の売春宿ですか!」。校長は言い返す。「大ゲサすぎます。ふたりの間になにもありませんでした」ママは引き下がらず娘を退学させる。雑誌のインタビューが家で行われた。役を取るために大事な取材だから絶対じゃまをするなとママはティナに命じる。しかしインタビュアーの前でティナの態度が気に入らないと、ママは逆上。娘の頬を張り、「わたしが叩くように仕向けたいの? 記者の前で恥をかかせたいのね」を怒鳴りつける。可哀想なティナ。泣きながら「なぜわたしを養子にしたの?」ママまで泣き「やさしい母親を宣伝するため? そうかも。でもそれだけじゃないわ。いったいあなたをどう扱えばいいの? 多くは望んでいないわ。どうしてあなたはそのへんの人たちみたいにわたしを扱わないの?」ティナは冷たく「わたしはあなたのファンじゃないのよ」「わたしを愛していないのよ!」ママは娘にとびかかり首を締め上げるのだ▼映画を見る限り、ジョーンは自分が女王であることを周囲に徹底させるエゴの塊だった。おまけに仕事の完璧主義を、家庭と育児に持ち込んだのだから、管理、管理でがんじがらめにされたティナこそ災難だった。だからママに対して憎しみだけかというとそうではない。ママの情の濃さは何においても普通ではなく、ティナはママの濃厚な愛情を、決して偽りではないと感じてはいたが、なにしろ常軌を逸した激しい性格だったからたまったものではない。ジョーンが4度目に結婚した相手はペプシコーラの社長だった。夫の死去により、ジョーンも取締役を辞任すると役員会は見ていた。ジョーンの散財により夫は株を抵当に会社から借金していたから「五番街のアパートは差し押さえ」られた。退任の要求をジョーンははねつける。「わたしは取締役会のメンバーなのよ。この会社を創ったのはわたしの主人だわ。あなたたちが主人を殺したのよ。わたしがどれだけ製品の販売に貢献したと思っているの。ペプシをマスコミに売り込んだのはわたしよ。わたしが製品を批判したらどれだけ売上が落ちるかしら」ジョーンは映画会社とさえサシで渡り合う交渉力を遺憾なく示す。もちろん留任である▼ママの臨終をみとったティナは独白する。「ずっと愛していたわ、ママ。やっと終わったわね。これで痛みから解放される。もう自由よ。どうか安らかに眠って」。最後までジョーンに仕えた秘書のキャロル・アンはティナが暴君にもひとしいママに、いかに忍耐したかよくわかっている。「お母様はあなたを心から愛していたわ」とやさしく言い、ティナも「そう信じたい」。この願望はでも打ち砕かれる。弁護士が開封した遺言の執行は「次の者に残す遺産はありません。息子クリストファー。娘クリスティーナ。理由は本人たちが承知しています」。ティナは「あの人らしいわ」。「決めるのはいつもママだ」と言う弟に「本当に…そうかしら」とティナは含みのある返事。それが暴露本の出版だったのですね。それにしても、いやはや、大女優なんてつくづく普通の神経じゃないのだとよくわかったわ。

 

 

Pocket
LINEで送る