女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss
  • ブックマーク

特集「ザ・クラシックス」

2015年12月6日

特集「ザ・クラシックス3」⑥
ミセス・ハリスの犯罪(2005年 事実に基づく映画)

Pocket
LINEで送る

監督 フィリス・ナジー

出演 アネット・ベニング/ベン・キングスレー/フランシス・フィッシャー

シネマ365日 No.1591

成功の光と影 

特集「ザ・クラシックス3」

ヒロインのジーン・ハリス(アネット・ベニング)が痛々しい。彼女が親友マージ(フランシス・フィッシャー)の紹介で心臓外科医ハーマン・タウナー(ベン・キングスレー)に出会ったのは1966年、彼女が42歳でタウナーが56歳。ジーンはその前年に離婚していた。タウナーはブルックリン育ちのユダヤ人で裕福とはいえない環境で育ち、猛勉強して医師となり自らの病院を持つまでに成功、プレーボーイとして独身を謳歌していた。お互いに惹かれ合い、幸福な時間を共有したふたりはやがて婚約、しかしタウナーの気持ちが微妙に変化し結婚はしないが大事なパートナーとしてつきあう関係になる。ジーンも大人であるしそのままなら平穏な愛人関係は続いただろうが、タウナーが書いた「スカーズデイル・ダイエット」という本がベストセラーになり、病院の看護婦リンと関係ができた。タウナーは遺言書を書き換え、ジーンではなくリンを相続人とする▼ジーンの神経はこのあたりで参ってしまう。ダイエット本を発行するにあたってはジーンの尽力が多大だったにもかかわらずだ。1980年3月ジーンはニューヨークのタウナーの家でタウナーを射殺する。自殺するつもりで行ったがタウナーともみあいになり第一発目が彼のてのひらを貫通して鎖骨に入った。言い争っているうちにジーンはあと3発。弾丸は計4発だった。嫉妬に狂ったとされるが名うてのプレーボーイだった男と14年も交際して今さら嫉妬するなにがある。そう考えたほうが自然だろう。ジーンの友人マージは「結婚に向かないのはむしろジーンのほうだった。彼女はパワーのある女性で、結婚生活が退屈だと息子ふたりを連れてミシガンでの生活を捨てフィラデルフィアでやり直した」と証言している。タウナーは姉の言葉によると「信じられないくらいもてた」。男友達は「彼の魅力は裸にならないとわからん。ゾウ並みなのだ」。ラブラブのときのジーンとタウナーはどうだったか。ジーンが目をさますとタウナーが甲斐甲斐しく朝食の支度をしている。湯気のたつ淹れたてのコーヒー、香ばしいトースト、その端からふたりでカリカリと齧りはじめ、食べ終わるころはキスする。こういう芸当のできる男である。もてないはずがない▼ジーンは「ギルダ」のリタ・ヘイワースが好きだった。「自分を傷つけても弱みを見せまいとする女。ドレスを着た背の高い大胆な女」。彼女が好きなその大胆な女は「子供が産まれてからずっと疲れ」を覚えるようになり「だれもわたしが人間だということを知らない。それはたぶん、女性でありながら男性と同じように家族を養ってきたことと関係があるのでしょう」と法廷で述べることになる。ジーンは校長として名門女子校を運営し成功させた。普通なら富も名声もえたサクセスストーリーのヒロインである。女がそこまで成功するには孤独であり敵もつくり、裏切りも背信も経験しただろう。しかし息子たちは明るく素直に成長し、女手ひとつで自分たちを育ててくれた母親を大切にし、マージという親友もいた。50歳の誕生日をこの3人に囲まれ「あなたたちといることがわたしの幸福」とジーンは言っている▼ウツのタネのようなものがジーンにあったのではないか。だれの人格にも光と影がある。成功する、しないにかかわらず、頑張る、頑張らないにかかわらず。ジーン自身によれば「昔からなにかあれば自殺を考えたわ。大半の人は人生に見放されてもそのことに気がつかない。でもわたしにはすぐわかる。その状況を見抜く能力を生まれつき持っていた」。世間には1しかない力を5にも10にも見せるのがうまい人がいくらでもいるのに、ジーンはその逆だった。人生に見放されるというが、いま生きている自分を感じることが人生ではないですか。裁判は一時ジーンがタウナーに誠実に尽くした事実と、にもかかわらずタウナーの女性関係が明るみに出て、無罪に傾いた。そこへ発見されたのが後年「スカーデイル・レター」と呼ばれるジーンからタウナーにあてた便箋14枚の手紙だった。文中のうらみ辛み、タウナーへの憎悪が延々と書き綴られ陪審員の心証は逆転した。無期懲役となった彼女は1992年69歳で恩赦となった。刑務所で2冊の本を著している。

 

 

Pocket
LINEで送る