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特集「ザ・クラシックス」

2015年12月7日

特集「ザ・クラシックス3」⑦
暗殺の詩/知りすぎた男どもは抹殺せよ(1973年 ミステリー映画)

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監督 ロベール・アンリコ

出演 ジャン=ルイ・トランティニャン/フィリップ・ノワレ/マルレーヌ・ジョベール

シネマ365日 No.1592

絶滅危惧種の3人 

特集「ザ・クラシックス3」

どこが「暗殺の詩」なのよ。原題は「秘密」。こっちのほうが本作のミステリアスをよく表しているわ。それに「暗殺の詩」という叙情的なニュアンスと、副題の「知りすぎた男は抹殺せよ」の殺伐さのミスマッチなこと。先が思いやられる。そう案じながらのオープニング。この数分間の導入部がなければ、ロベール・アンリコの監督だと信じなかったと思うわ。映画とは落語の「芸」に通じるものがあるの。全然大したことない…どころか、ありふれた些少のネタを語り口によってイマジネーションをかきたて、見せていく、聞かせていく、引きずり込んでいく。豪腕・辣腕・洗練・異能・繊細・甘美。いろんな監督の語り口があるけどアンリコは叙情よ。「冒険者たち」(1967)なんて、現実をドロップアウトした若いやつ3人が、宝探しに行ってふたりが死ぬ。それだけの話を、どうだろう、あの心に沁みる永遠のスクリーンに仕立てあげた腕は。本作なんか、こんな劣悪な邦題だけで、監督がアンリコでなきゃ絶対パスしていたわ▼主人公がジャン=ルイ・トランティニャンにフィリップ・ノワレ。フランス映画界の、煮ても焼いても食えない役者ふたりに、「雨の訪問者」(1970)のマルレーヌ・ジョベールが狐(ジャン=ルイ)と野豚(ノワレ)にはさまれた兎みたいな感じで現れます。役名は省きます。登場人物はほとんどこの3人だけです。ジャン=ルイが刑務所みたいな施設を脱走するところから物語が始まる。アンリコの映像感覚がシャープで音楽がエンリコ・モリオーネ。彼らにとって観客とは(言葉は悪いが)感動という「罠」に追い込むための獲物と同じで、どう進ませれば罠におちてくれるかそればっかり考えている。観客は観客で、きっとなにかやってくれるだろうという、彼らのスキルに対する暗黙の期待がある。その期待に応えるピカイチのファーストシーンです▼脱走したジャン=ルイは山の中でノワレが経営する民宿に逃げてくる。ノワレの妻がマルレーヌだ。ノワレは野菊のような可憐で美しい妻が自慢でこよなく愛している。彼は親切な男で、訳ありげなジャン=ルイに泊まっていけという。妻は気味悪がるがノワレは理由もきかず受け入れる。あのね、ひょっとしてゲイ映画じゃないかと思ったのよね、このへんで。おかしいでしょ、見ず知らずの、しかもジャン=ルイは迷惑をかけることになるからこのまま去ると言っているのに「泊まれ、泊まれ」というのよ。いじりすぎて映画はもたつき始める。夫婦はジャン=ルイが追われる身であることは知ったが理由がわからない。ますます妻が不審がるので、さすがに夫は「わけを聞かせてくれ」というが、ジャン=ルイの返答は「理由を知れば君たちも殺される」と要領を得ない。妻はパリで新聞記者をしている兄に、得体のしれない訪問者が来て薄気味悪い、犯罪に関係有るようだと知らせる▼夫はこの山小屋なら安全だからいっしょに暮らせばいいとかくまう気である。そんなこと言っているから妻とジャン=ルイはできてしまい、男がそれを打ち明けても「男と女だからな」と夫は怒るふうでもない。ノワレのヌラ〜とした顔がだんだん気色悪くなる。やっと監督の意図がつかめてくる。町に買い物に行った夫婦は精神病院から脱走者がでたことを新聞で知る。写真の顔はジャン=ルイと似てもにつかない。ジャン=ルイはその写真はわざと偽物を使っている、あいつらの目的はあくまで自分だと言いはり、森の管理人を射殺する。妻は死んだ管理人の粗末な風体を指し「この顔を見て。彼のどこが刑事に見えるの」と問い詰めるがジャン=ルイはびくともしない。兄は妹からの要請を受け当局に取材する。どこにも脱走者はいないが不審な人物がいるなら当局が調査に当たるから、君は関知しなくていいと体よく追い払われる。ジャン=ルイの居場所を知った追跡者は山中に追手を派遣する。ジャン=ルイとノワレとマルレーヌは追い詰められる▼ジャン=ルイが脱走した施設は表向き精神病院だけどじつは秘密裏に生体実験しているのね。モノローグとして「近代社会の発展のため大勢の人が人生を狂わされた。多くの事実を知りすぎたジュリアン(マルレーヌの兄)も同じ運命をたどった」と字幕にでるから、国がらみの秘密を守るためにみな殺されちゃったってわけ。これが「暗殺の詩」なの? バカにするなっていいたいけど、まあ、ジャン=ルイがひょっとしてホントの狂人ではないかと疑いを強くさせていくプロセスがさすがですね。ジャン=ルイの、そう意図しているのかいないのか、どっちかわからない「無表情」って特筆ものよ。それは3人に共通するわ。おおげさな顔と演技が売りの役者が増えてきた昨今、彼らは絶滅危惧種だわ。それとマルレーヌ・ジョベールは当時30歳でした。7年後に娘を産みました。細面の顔立ちは母親譲り、きっぱりした目が際立つエヴァ・グリーン(「汚れなき情事」、「シン・シティ 復讐の女神」)です。

 

 

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