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特集「ザ・クラシックス」

2015年12月8日

特集「ザ・クラシックス3」⑧
ふしだらな女(1928年 恋愛映画)

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監督 アルフレッド・ヒッチコック

出演 イザベル・ジーンズ

 

シネマ365日 No.1593

理解などしてほしくありません 

特集「ザ・クラシックス3」

サイレントです。日本では劇場未公開でした。わずか60分の尺です。字幕も最小限度におさえてあり、ヒッチコック得意の映像だけで物語る、初期作品の代表作。主演のイザベル・ジーンズは93歳で存命中(2015)。ヒッチのイギリス時代の映画によく出演しました。ヒッチ好みの気品のある容貌です。もちろんヒロイン、ラリータを演じます。原作はノエル・カワードです。劇作家であり俳優であり、本シリーズの「バニー・レイクは行方不明」では、ヒロインにまといつく、変態の大家を演じました。なんでこの映画を選んだかというと、「シネマ365日別冊 1日3分ゲイ映画のキメ台詞」で、ヒッチコックをとりあげ、彼が悪女好きだったことを示す数本の作品をよりだしました。まあ、あること、あること。ヒッチコックという男性は非常に複雑な性格で、わかりやすいと思えば姿をくらます、やっかいなところがありました▼女性の好みは比較的単純と思われています。まず金髪フェチである。最初のミューズがイングリッド・バーグマン、つぎがグレース・ケリー、キム・ノヴァク(「めまい」)も、エヴァ・マリー・セイント(「北北西に進路を取れ」)もジャネット・リー(「サイコ」)もそう。ただしティッピ・ヘドレン(「鳥」)以後、金髪美女は姿を現しません。ヘドレンに振られて金髪嫌いになったのか、などとまことしやかにささやかれましたが、映画の鬼、ヒッチに限って女ひとりにふりまわされることがあろうか。あったかもしれんけど(笑)、なんせ奥さんのアルマがしっかりしていたからね。金髪なんて、おしなべて男性からみた女の好みだといってもたいした間違いではない。しかしヒッチコック映画の、ほとんどの主役の女の共通項として、ヒッチの悪女好きがあがらないのは、常々不思議で仕方ありませんでした。彼は泥棒女が好きであり、詐欺女が好きである。そして男でいえば、一筋縄でいかない、訳ありの女を愛する男が好きである▼これはヒッチコックの映画が、サスペンスといい、ミステリーである以上、普通の女であっては困る、なんらかの形で犯罪にからむ女が登場するのは当然であって、犯罪となると、まして犯罪を犯す女となると、マトモな、平凡な主婦や角のない従順な、可愛らしい女性では、お役がつとまらないことが多い。たとえそうであっても、事件を契機に強い女に変身するとか、開き直るとか、それまでの自分をかなぐりすてることになったとしても、おかしくはない。そういう視点で「1日3分」を書きだしたのですが、主役でなければ脇役、それも大事なキー・パーソンとしての脇役に、いわゆる悪女が配されていておもしろかった。ヒッチコックとはとどのつまり「悪女好き」なのだ、その角度から女優をみると、彼の映画はますます生き生きしてきます。ヒッチコックの「女嫌い」という定評は、ほとんど男性の批評家によって定着したもので、確かに故意に女優をいじめまくっているような、ひどい撮影はありましたが、ヒッチが惹かれ、魅力を感じてきたのは、どんな状況にあってもやりたいことをやる、自我を通す、当時の時代では受け入れられにくかった女たちでした▼本作はズバリ「ふしだらな女」。冒頭の字幕に「美徳は報いを受ける。しかし安易な美徳(これが原題)は、誹謗・中傷という社会的な報いを受けるだろう」。つまり、ラリータは「安易な美徳ゆえ世間の誹謗、中傷を浴びて破滅する」ことになるのですが、それにしてはラリータが元気よすぎる。彼女はアル中の亭主を棄て、画家と不倫の恋におち、画家は自殺してしまった。ラリータは有罪判決を受け、のち南フランスにいき、若いイギリス紳士ジョンと出会い、再婚する。しかしジョンの母親や妹ははじめからラリータによい印象をもっておらず、身の上の詮索に余念がない。ジョンの献身的な愛情がラリータをいやしてくれるが、彼の家族とはうまくやっていけそうもない。パーティーに招かれた訪問客のひとりが、裁判で見たラリータを覚えており、彼女の過去のスキャンダルをばらす。母親はかちほこって「あなたのようなふしだらな女、理解できないわ!」と面詰する。「あなたに理解などしてほしくありません」とラリータは言い返す。ジョンを愛するサラという若い女性が登場します。彼女はラリータをも好きである。ラリータも彼女には心を許す。この家を出ようと決心したラリータはサラに「ジョンと結婚しなさい」と言い残し、家を去る▼当時、離婚といえば裁判ものだったらしい。離婚裁判で法定に引き出されたラリータをみようと、野次馬が裁判所につめかけた。ラリータは「もう逃げ隠れしないわ!」と、群衆の中にまっすぐ降りていく。要は「社会的な報い」とは、ラリータが婚家や世間から爪弾きされたことをいっているのか。それにしても「あなたに理解してほしくなどない」と宣言したラリータのほうが、いまからみたらカッコいいことは、ヒッチは百も承知だったのではないか。あの思わせぶりな字幕はなんだったのだ、ということになる。あれこそ、なんの役にもたたないマクガフィンだろう。登場人物の動機付けや、話を進めるうえで用いられる仕掛けのひとつで、ヒッチは「どんな物語にも表れる機会的な要素で、意味はない」としている。

 

 

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