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特集「ザ・クラシックス」

2015年12月11日

特集「ザ・クラシックス3」⑪
私の秘密の花(1996年 恋愛映画)

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監督 ペドロ・アルモドバル

出演 マリサ・パレデス

シネマ365日 No.1596

暗礁にのりあげた夫婦 

特集「ザ・クラシックス3」

ペドロ・アルモドバルは本作について「やさしさの映画と定義している。普通やさしさの映画は感傷に堕してしまうのが常だけど、この作品に感傷はまったくない。演出にも、演技にもね。撮影が進むにつれ、演出をどんどんシンプルにしていった。これはシリアス・ドラマであって、メロドラマではない。苦しみについての映画だ。捨てられたことの苦しみだよ」。捨てられるヒロイン、レオに扮するのがマリサ・パレデス、いうまでもないアルモドバル組の常連です。彼女は軍人であり、遠方に勤務する夫パコとの間に不安を感じている。アルモドバルの映画の共通項に「病気」あるいは「神経衰弱」があります。そのものズバリ「神経衰弱ギリギリの女たち」という映画さえあり、奇しくもこの映画は「ヴェネツィア国際映画祭」の脚本賞を受賞、アカデミー外国語映画賞にノミネートされるなど、アルモドバルの名を国際的に知らしめました。かくのごとく、彼は「神経を病んだ人たち」を描かせたらユーモラスで強い▼レオも例外ではありません。導入部の情景描写に、アルモドバルの好きな「靴」が用いられる。レオはブーツを履いて原稿を打っている。ブーツは脚にきつく、脱がせることができるのはハンサムな夫のパコだけだ。でもパコは勤務地だ。レオは親友の心理カウンセラー、ベティに助けを求めるが彼女も脱がせられない。パニックに陥ったレオをみかね、新聞社の編集長アンヘラを紹介する。アンヘラはレオに一目惚れ。夫の買った靴がテコでも脱げないというトラブルが、暗礁に乗り上げている夫婦を象徴する。久しぶりに帰国したパコは、ウズウズしているレオを焦らした挙句「2時間しかここにおれない」と言う。夫婦の時間を待ち望んでいたレオは逆上、夫はもはや自分を愛していない…正解。監督が言うとおり、なんの幻想も妄想も誤解も持たせない、乾いたタッチで映画は進み、レオは愛の終末に打ちのめされる。彼女はペンネームでロマンス小説を書いていることは夫には内緒だったが、心の不調を反映してスランプ気味。決定的な別れの言葉を口にしたパコに、レオは絶望して睡眠薬をあおる▼レオを救ったのは母の電話だった。レオは意識もうろうとしたまま街をさまよい、偶然アンヘルに助けられる。アンヘルの部屋で目覚めたレオに彼は「君の秘密の花を咲かせた」というではないか。このへんがどうも、アルモドバル本人がいうほど冷淡な映画じゃない気がするのよね(笑)。マドリッドから母親といっしょに、故郷の田舎に帰ったレオは、ふるさとの村、近所のおかみさんや女友だち、なつかしい風景に心癒される。母親は言う。「鈴なし牛とは道に迷ってさまよっている牛だよ。わたしも鈴なし牛だよ。でもこの年だから仕方ない。離別でも死別でも、夫を亡くした女は故郷に帰ってお祈りをささげないと鈴なし牛になってしまう」。レオは自分も「鈴なし牛」になったと思いつつ、故郷の女たちとのおしゃべりや編み物、いっしょにすごす心安らかな時間にパワーを回復しマドリッドに戻る。そこではレオの新作がすばらしいという評価がアンヘラのもとに届いていた。アンヘラがレオの窮地を救うため代作したものだが、レオは感激する。こういう調子のいいことも、アルモドバルはやるのです。レオのメイド、ブランカはフラメンコの名手だった。ブランカは奥様思いで、神経の不安定なレオが不安で家を離れられない。息子が説得し、やっと舞台に出場させる。彼女と息子のアントニオの公演を見に行ったレオは、力強い踊りに酔いしれ、現実に立ち向かうため離婚を決意する。アントニオには「フラメンコの貴公子」ホアキン・コルテスが出演、ブランカのマヌエラ・パルガスとともに、みごとな踊りを披露します▼アルモドバル映画の共通項「助け合う女たち」が本作でもみてとれます。大げさでなく世界中の女を感激させた傑作「オール・アバウト・マイ・マザー」が発表されるのはこの4年後です。アルモドバルは決しておめでたい恋愛を描きませんが、それがどんなに死と病と別離に彩られていても、必ず「回復期の愛」の温かな視線が登場人物たちに注がれています。

 

 

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