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特集「ザ・クラシックス」

2015年12月13日

特集「ザ・クラシックス3」⑬
薔薇のスタビスキー(1973年 事実に基づいた映画)

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監督 アラン・レネ

出演 ジャン=ポール・ベルモンド/シャルル・ボワイエ/アニー・デュプレー

シネマ365日 No.1598

彼が好きで離れられないのです 

特集「ザ・クラシックス3」

ジャン=ポール・ベルモンドの代表作といえばもちろん「勝手にしやがれ」でしょう。26歳でした。その6年後、やはりジャン=リュック・ゴダール監督の「気狂いピエロ」に主演しました。どっちもヌーベル・バーグの傑作にはちがいないのに「ベルモンドらしさ」というか、彼の体臭とか呼吸とか、まばたきするまつげの音とか、タバコの臭いとかいうものが、これらの代表作からはただよってくる気がしないのです。ゴダールが後年「いちばん使いたくない俳優」の筆頭にベルモンドをあげていますが、このふたりの呼吸がかみあっていなかったというしかないと思えます▼それにひきかえ「薔薇のスタビスキー」はベルモンド40代の、押しも押されぬ代表作となりました。彼が俳優として注目された最初の映画が、クロード・シャブロル監督の「二重の鍵」でした。ゴロツキ同然の男を演じたベルモンドは、野卑で粗野な男にコッテリした肉体の存在感を与えています。でもスタビスキーはそれだけではない。ちょっと横道にそれますが、原題の「スタビスキー」を「薔薇のスタビスキー」それも薔薇を漢字としたセンスに脱帽します。薔薇という一言によって、本来は詐欺師であり犯罪者であり、ペテン師であり、いかさま師である主人公を「野卑で粗野」なだけではない男にしてしまったといってもいい。ベルモンドは体中からいかがわしさをふんぷんとふりまきながら、エレガンスでさえある「薔薇の」スタビスキーを、水を得た魚のように演じました。この映画からベルモンドは本格的な映画製作に乗り出し、ギャラはアラン・ドロンを抜き、フランス男優のトップに躍り出たのです▼本作の前年「相続人」でベルモンドは、ダンディな三つ揃いをりゅうと着こなすコンツェルンのサラブレッドにして、全ヨーロッパの資産家20位に入るセレブの後継者を演じました。ベルモンドの半分つぶれたような鼻が、どういうわけかハーバード大卒という、主人公のインテリジェンスにふさわしく見えるではありませんか。ベルモンドって実は知性的でエレガンスなのだわ、と思ったのが運の尽きです▼本作の時代は1930年の始め、レオン・トロツキーがスターリンとの権力抗争に破れフランスに亡命してきたところから始まります。不穏な欧州の大戦前夜が舞台です。そういう大前提からすると映画の本筋にとって、ベルモンドの鼻がどうとか薔薇がこうとかなど、アラン・レネ監督にとっては「たわごと」であります。でも公開から半世紀たった今、あらためて本作を見たら「たわごと」のほうがベルモンドの相貌を生き生き伝える要素であると思えるのはなぜ…。簡単に粗筋にふれると、アレクサンドル・スタビスキーはクラリッジ・ホテルのロビーに、友人であり共同の事業経営者でもあるラオール男爵(シャルル・ボワイエ)と弁護士のボレリとともに座っていた。スタビスキーはまがいものの宝石を担保に、バイヨンヌ市の公債を発行し巨額の現金をフランス中から集め、多額の被害者をだすことになる詐欺師です。しかしこの時期はまだ正体をつかまれることなく、野心に燃える壮年実業家を堂々と振る舞っています。スタビスキーの美しい妻アルレッテ(アニー・デュプレー)は、湯水のごとき贅沢で磨き上げた美貌の夫人。彼女に情熱を捧げるスペインの青年実業家の求愛に「スタビスキーが好きでどうしても離れられないのです」と言って誘いを断る。こんなセリフ、一生に一度は言うか聞くか、してみたいと思わぬやつはいるだろうか▼もうひとり、スタビスキーにだまされ全財産をつぎこみ、文無しになったにもかかわらず「スタビスキーはわたしの友だ」といって法廷で擁護した、神々しいまでに高貴な精神の持ち主がラオール男爵。ここまでスタビスキーに入れ込む男や女がいたことを考えると、チンケな詐欺師に終始しただけの男ではなかったのでしょう。時の内閣を総辞職に発展させたスタビスキー事件は、スタビスキーが逮捕直前、拳銃を頭に撃ちこんで自殺したことによって自ら幕をひきました。自分のいい加減さがよくわかった上で、弁護もせずごまかしもせず、居直ったわけでもないのにスケールを感じさせる、そんな男の「才能の陰」みたいなものをベルモンドがうまく出していました。

 

 

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