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特集「ザ・クラシックス」

2015年12月15日

特集「ザ・クラシックス3」⑮
蛇の穴(1948年 社会派映画)

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監督 アナトール・リトヴァク

出演 オリヴィア・デ・ハヴィランド

シネマ365日 No.1600

中から見た精神病院 

特集「ザ・クラシックス3」

ある日すべての記憶を失い、夫の顔も自分の名前も忘れ、精神病院に入院してからの5ヶ月間のことを、なにも覚えていないヴァージニア(オリヴィア・デ・ハヴィランド)が主人公だ。彼女はシカゴで結婚した、相手のロバートは出版社に勤務、そこへ作家志望のヴァージニアが原稿を持ち込んだのがなれそめだ。つきあった最初からヴァージニアは家族のことも家庭のことも、およそ自分の過去の話をしたがらなかった。そればかりか、突然行方を告げず姿を消したこともある。ふたりはニューヨークで再会し結婚した。ある日、勤務先から帰宅したロバートは、妻が窓辺に立ち自分を喪失しているのに愕然とする▼精神病院に入院したヴァージニアを診察した主治医のキックは、我慢強い会話を試み、患者の信頼を得るが、それでも彼女の心が何によって閉ざされているのか、真相がつかめない。立ち入ろうとするとヴァージニアは強い拒否反応を示し、面談は中止されるのだ。精神病院の中だけで進む物語がとてもミステリアスです。ヴァージニアの闇を作りあげた原因はなにか、というのがひとつですが、もうひとつ、精神病院の内部を描くドキュメンタリーのような様相がショックを与える。気のおかしいのがなぜ女性のみであって男性ではないのかという疑問もあるが、イングリッド・バーグマンの名品「追想」「さよならをもう一度」を残してくれた、アナトール・リトヴァクであることゆえ、気にしないでおこう▼ショック療法や催眠療法の施療で、キック医師はヴァージニアが過去になにか恐怖を抱いていることを察したが、妻の過去をほとんど知らないロバートから情報は得られない。会話を重ねたキックは「父親」「結婚」「人形」「5月」がキーワードであることをつかむ。キックはヴァージニアに言う。「5月の記憶を君から取り除けばいいのだ。君を苦しめている感情から君を救いたいのだ」。ヴァージニアは徐々に意志の疎通を図ろうとするが、正気を時々取り戻すとロバートに「わたしを離婚して。わたしに縛られないで暮らして」と言ったりする。看護師のなかにはキックがヴァージニアに親切なことを嫉妬して、ヴァージニアを「蛇の穴」と呼ばれる凶暴患者の雑居房にいれてしまう。そこは、面会人にいきなり大声をあげた女性が、テーブルの上のものをはたき落とす、だれかが大声で泣き部屋を出ようとしてドアをガンガン叩く、どこからか叫び声が聞こえる。だれかは大統領夫人であり、両家の出身であると喚いていた。ヴァージニアはそれら異常事態の坩堝に身をおき「わたしも彼女らといっしょなのね」と、逆療法で自分を取り戻す▼ヴァージニアの子供時代の記憶の断片を追跡したキックは、彼女のトラウマが母に愛されなかったこと、父に助けを求めたが、父は母に味方したこと、そんな父を恨み、父が買ってくれた人形を壊し「パパなんか死んじゃえ」と願ったこと、そのすぐあと父は交通事故で他界し以後ずっと潜在意識下でヴァージニアは自分を責めている、ということがわかってきた。キックの分析は「ヴァージニアは父の思い出に生きていた。彼女が結婚しようとした男性は父親の代替だ。厳しく頼りになる、あるいはロバートのようにやさしく自分を守ってくれる、だが心のどこかで彼らと父親は相容れないことに気づいている」結婚話がでるたび、ヴァージニアの気分が悪くなるのは、夫と父親のあいだにある無意識のギャップに責められるからだろう。ともあれ、薄紙をはがすように記憶をとりもどしたヴァージニアは、冷静な自分に戻り、退院テストにもパスした。キックに礼をのべ、迎えにきたロバートとともにバスに乗るヴァージニアは、自分が治ったことがよくわかる、ダンス・パーティーの夜、先生を愛していないとわかったから、と言って笑顔を向ける。ただひとつ心残りは、暴力をふるうため孤立しているヘスターだった。彼女は過去のショックのため失語症になっていたが、ヴァージニアだけは拒絶しなかった。ヴァージニアはヘスターを抱きしめる。ヘスターは重い声だったがゆっくりと「ありがとう、ヴァージニア」と答えた。「話せたじゃない。先生とお話するのよ。会いにくるわね」緊張しまくりの世界にどっぷり浸った107分のあと、このラストは清涼感あふれていました。

 

 

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