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特集「ザ・クラシックス」

2015年12月10日

特集「ザ・クラシックス3」⑩
囚われの女(1968年 恋愛映画)

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監督 アンリ=ジョルジュ・クルーゾー

出演 ローラン・テルジェフ/エリザベート・ウィネル

シネマ365日 No.1595

あなたのためなら何でもするわ

特集「ザ・クラシックス3」

従属する女がみんな好きね。陰気な連中ばかりだわ、この映画。だいたいアンリ=ジョルジュ・クルーゾーが「陰」の人なのよね。「恐怖の報酬」にして も「悪魔のような女」にしても、彼の映画で出演者が、腹をかかえて笑っている、はもちろん、ニッコリ微笑んでいる場面も、不明にして見たことがない。本作にしてもローラン・テルジェフが人形をいじくりまわすファースト・シーンはしっかり陰にこもっていて、オープニング早々クルーゾーの本領発揮だわ。ここがいやらしいのよ。テルジェフがあの通り、鋭い切れ長の目でしょう。彼は1960年代、アラン・ドロン、ジェン=ピエール・ベルモンドと並ぶフランスを代表 する男優三羽烏でしてね、その後舞台に軸足を映し、映画出演は少なくなっていきました。ハンサムという顔ではないけど、輪郭のきっぱりした鋭い容貌です。 どこがいやらしいかというと、テルジェフが細い長い指先で、裸の小さなゴムでできた少女の人形をクネクネとさわるのです。人形は男の指の動きに従い、背中を反らしたり、胸を突き出したりする。ここだけで彼の性癖が図鑑を見るようにわかります▼スタン(ローラン・テルジェフ)は画廊の経営者です。展覧会が催され、夫の出品をみにいったジョゼ(エリザベート・ウィネル)は初めてスタンと会う。スタンはジョゼを気に入り自宅に呼ぶ。彼の家というのがしゃれたセン スのいい、いかにも画廊のオーナーという洗練の極みである。ただちょっとつま先のつながった靴とか、極彩色のタペストリーとか、尋常の趣味ではないと思えるインテリアがあるが、ジョゼはそれも芸術家ゆえの嗜好であると納得する。スタンは作家の筆跡(サイン)を幻燈で映し出す。面白くもおかしくもないものを 写しだして彼は機嫌が良い。だいぶ変わった男だと気づくべきだった。一枚、裸の女が後ろ手にしばられた写真がまざっていた。スタンがわざとみせたのだと ジョゼは察する▼スタンというのは非常に感性のとんがった男に設定されていましてね、ジョゼはスタンに見初められたわけよ。自分の変態趣味を理解し共有で きる女だとね。ジョゼはそれからスタンのことが忘れられなくなる。スタンのスタジオに行き、写真撮影に立ち会う。モデルは素人、2時間で1万フラン、条件 は服従。スタンに言わせると「服従は甘美な自己放棄だ」。「モデルとは寝ない」のが信条だそうだが、後にわかるがスタンは不能だから寝るも寝ないも成り立たないのである。母親の写真を見せ「母だ。死刑になった」というけどどこまで本当かわからない。モデルが来て気が狂ったようにスタンがバシャバシャ、 シャッターを切る。滝のようなシャッター音である。ジョゼは気分が悪くなって帰るが、吸い寄せられるように再びスタンを訪ねる。スタンは厳しく、モデルに 無断で帰った非礼を詫びろと命じる。「なんでもやるわ、あなたの望むまま」とジョゼは答えるではないか▼スタンはこういうことを指示する「四つん這いでこ こへ来なさい。口を開けて。恥ずかしいか」「いいえ、慣れていないだけ。あなたのためになんでもするわ」。ジョセは自分が異様な世界にいることに気づき 「わたしはあなたの何なの。いわれた通りに動く人形? 奴隷? 思い通りになると思ったらイイ間違いよ。愛がなければただの不潔な遊びよ。あなたは人に尽くすことのできないカラッポの人間よ。だから変態になったのよ」まっとう至極な指摘をする。夫も妻の様子がおかしいのはわかったものの、スタンと同じ遺伝 子を持っていないから全然共鳴しない。変人の仲間入りはごめんだと、あっさり妻を突きはなす。「スタンがこわい。彼に言われたら逆らえない」といいながら ジョゼはスタンとふたり荒々しい海岸に行き、愛を告白し一夜をともにするが、翌朝スタンはジョゼをホテルに置き去りにする。スタンはスタンで、自分が不能 で女を愛せないことがわかっている。だから「君を愛せない。おれはクズで下劣で腐っている」とコンプレックスまみれである▼とにかく登場人物の全員が申し 合わせたようにコンプレックスをかかえています。ジョゼはスタンを拒否できない自分に。夫は夫で、妻に嫌われる自分に。彼は一見妻を見捨てるようだが、じ つは愛されている自信がないから遠ざかろうとする。スタンは自分がクズだと思い自殺を試みるが実行する勇気がない。現実社会に居場所を見いだせない彼は、 半分死んでいるのも同然に自分をみなしているのだからつらいよな。ジョゼは交通事故で病院に搬送される。意識はなく、かけつけた夫が名をよぶと、彼女が口 にした名前は「スタン」。どこまでもくいちがう愛の在り様ね。共感するのが難しい映画だけど、愛にはこういう残酷さもあると思わないと仕方ないな。

 

 

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