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シネマ365日

2015年12月20日

特集「それいけ、アニマルフェスティバル4」⑤
こねこ〜旅するチグラーシャ〜(1999年 家族映画)

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監督 イワン・ポポフ

出演 マーシャ・ポポフ/サーシャ・ポポフ/アンドレイ・クズネツオ

シネマ365日 No.1605

悶えるぞ

特集「それいけ、アニマルフェスティバル4」

めずらしいロシアの映画というせいか、ソ連崩壊8年という先入観のせいか、あるシーンはドストエフスキーの「貧しき人々」、あるシーンはゴーゴリやチェホフの暗い中のコメディ、といった空気にとらわれたのですが、それも途中まで。ペット市場で、女の子が一匹の子猫を見つける。てのひらで包める子猫が、おばさんのふところから顔を覗かせている。女の子マーニャ(マーニャ・ポポフ)はたちまち夢中。おばあちゃんはうなずく。今日はマーニャの誕生日だ。マーニャは大喜びで子猫を抱いて家に帰る。マーニャの家はフルート奏者のパパとやさしいママにおばあちゃん、弟のサーニャ(サーシャ・ポポフ)。子猫の名前は「チグラーシャ」(トラ猫)に決まった▼チグラーシャはヤンチャのし放題。テーブルクロスは引っ張る、サラはひきずり落ちてこなごな、カーテンにはぶらさがってちぎる、パパのフルートのケースにウンチはする。さすがにパパはカンカン。姉と弟がしつけ、チグラーシャが砂箱で立派にトイレができたときは、家族全員で拍手、とくるから、徹頭徹尾ネコ映画である。チグラーシャは小鳥を追いかけ窓からトラックの荷台のホロに。動き出したトラックとともに、チグラーシャの旅が始まった。たかがネコ一匹の映画である。どう転んでも予定調和はまちがいないのに…と思った浅はかさ。ホロの片隅でうずくまり、心細げに揺られていく子猫。着いたところは見知らぬ町。夜がきて腹ペコで、落ちていた魚の皮を引きずって食べた。雪は降る。排水の余熱で暖のあるマンホールの蓋に座っていたら、野良犬に追い払われた。モスクワの冬である。半端ない寒さと雪に、チグラーシャの毛は濡れてバサバサ▼撮影が素晴らしい。一体だれ? ウラジミール・ファステンコ。町の表情もさることながら、チグラーシャはどこにでもいるフツーのネコだ。ところがファステンコが捉えたネコの目は、世界でたった一匹の、宝石のような美しいネコの瞳になるのだ。ネコに限らない。動物がなにかを見つめるときの緊張感と集中力はドラマを秘めている。彼らはその瞬間の判断に命を賭けている。ファステンコはきれいで可愛い動物の目など眼中にない。動物の目とは命がけの目だと、わかったうえで撮っているのだ。チグラーシャはドーベルマンに襲われた。どんな犬好き・ネコ嫌いでも、このシーンだけはネコに喝采ものだろう。必死で逃げるチグラーシャを、獰猛なイヌが追いかける。子猫の脚でかなうはずがない。ワン、ワン、ワン。ドーベルマンがチグラーシャを地面におさえつけたとき、突如飛び出したオスの成猫が真っ赤な口を開け、牙を剥き、耳をぴったり頭につけて威嚇したばかりか、10倍も大きいイヌにネコパンチを浴びせたのだ。なんたる勇猛。なんたる果敢。目にもとまらぬ右フックで、鼻面をひっかかれたイヌは、みよ、退散したではないか。このオス猫の名はワーシャ。ワーシャはチグラーシャを自分の主人の屋根裏部屋に連れていきます。ここで登場するうらぶれた雑役夫がフェージン(アンドレイ・クズネツオ)です。劇中、大道芸でネコのサーカスを披露する彼は、世界的なネコ調教師です。本作のネコも彼のトレーニングによりますが、そんな技術を毫も感じさせない、信頼関係で結ばれた、自然体のネコと調教師です。フェージンの部屋を地上げ屋が狙い、フェージンは追い出される。代替のきれいな部屋をあてがわれるが、フェージンは大好きな7匹のネコと気楽に暮らせる屋根裏部屋がいいのだ。フェージンはときどき遊園地でネコサーカスをやったあと「きょうは稼いだから、シシャモを食べようぜ」とネコたちに買って帰る。地上げ屋の圧力で仕事もクビになった。力まかせにフェージンをひきずりだそうとする地上げ屋の背中に、ワーシャがとびついた。ジンジン、ブドウライ、イザウラが男たちの、顔にネコパンチ、頭に噛みつき、手をひっかき、脚にぶらさがり、クビに爪をたてる。阿鼻叫喚。家具の倒壊。路上まで聞こえる悲鳴に「あの部屋、様子が変だよ」。とうとう通行人が警察に通報した▼マーニャの家では、張り紙やテレビの告知など、手をつくしてチグラーシャの行方を探していた。マーニャは弟にいってきかせる。「北極から帰ってきたネコがいるのだって。オーロラの下を何千キロも歩いたのよ」「チグラーシャは小さいからムリだよ」「絶対帰ってくる。ネコは賢いのよ」。そのネコは、ある夜コンサートで弾かれるフルートの音を聴いた。ヴィヴァルディのフルート協奏曲。家でパパが練習していた曲だ。耳をすまし、らんらんと光を増す子猫の目。そうだ、走れ、チグラーシャ…地上げ屋に傷めつけられたフェージンも無事退院。不当な地上げ屋は逮捕、電気のとめられた屋根裏部屋に戻り、ろうそくをともした。窓ガラスで物音が。ワーシャがいた。開けてやると、ジンジンが、イザウラが、つぎつぎ音もなく入ってきた。勢揃いした7匹のネコと、フェージンはほのぼのと新年を迎える。ネコたちとともに、ロシアの風土、家庭、市民、モスクワの空、雪の町の匂いや生活の空気までたちあがってきます。マーニャとサーニャは監督の子供たちです。それぞれのネコのシーンでは、まったくもう、悶えるぞ。

 

 

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