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シネマ365日

2015年12月21日

特集「それいけ、アニマルフェスティバル4」⑥
トゥルーへの手紙(2010年 ドキュメンタリー映画)

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監督 ブルース・ウェバー

シネマ365日 No.1606

なつかしき文部省特選

特集「それいけ、アニマルフェスティバル4」

監督自身が製作の意図を語っている。「犬に手紙なんてヘンかもしれないけど、彼はぼくにとって最高の聞き手だ。僕がでかける支度をするとトゥルーは悲しい目をする。混迷するこの世界で、帰るまで家はあるだろうか、僕らの毎日は運命しだいだから、犬たちとの生活を追体験するために、映画を作ることにした。出演者は我が家の犬と猫だ」。帰るまで家はあるだろうかなんて、大げさと思うのは、彼が「9.11」直後の感想だからだ。それにしても美しい映像である。監督は写真家でもあり映画監督でもある。ストーリーらしいストーリーはなく、犬たちとの生活と、犬にまつわる交友関係と映画が、順不同に現れる。「名犬ラッシー」時代のエリザベス・テイラーも。彼女はおじいさんから「犬は自分の神様が見えるのだ。君がビル(犬)の神様さ」「わたしがそんな…神様なんて不思議な気持ち」。このときの体験があったせいかどうか知らないが、リズは無類の犬好きに育った▼ドリス・デイのエピソードもある。「ドリスは不動産開発業者と結婚した。彼女は20匹の犬を飼っていた。ある日夫が言った。5匹の犬をベッドからおろせと。ベッドには10匹の犬がいた。翌日ドリスは離婚した」。事実かもしれないが、よくできたお話というべきだろう。犬20匹にはたいていの人が辟易するだろうし、犬がベッドに乗る前に夫婦仲は、破綻していたにちがいない。「ダーリング」のジュリー・クリスティとダーク・ボガードも登場する。選択の理由はわからない。監督とたぶん個人的に親しかったのだろう。「ロンドンのダークの自宅を訪ねたとき、彼は黄色い壁の部屋でスコッチをすすめ、答える前についでくれた」とある。そのときの告白は「2週間で人生が激変した」話だ。ダーク・ボガードには20年来の恋人がいた。彼アンソニーはガンと診断された。治療のためイギリスに戻る必要があり、家と家財を売却し、メイフェアに移り住んだ。ボガードが発作を起こし「どん底だ」と嘆いたら、アンソニーは「南仏での20年という宝物があるじゃないか」と言った。ああ、幸せ▼ブリーダーの女性のエピソードは「牧場の動物が一匹死ぬと、牧場全体が静まり返る。だから妙に静かな日は様子を見に出る。だれか死にかけているから」。写真家のバローズは、ベトナムの戦場を写した。犬を抱く兵士。難民。腰から下が麻痺した少年。老人ホームを訪ねたとき、車椅子の老婦人が、トゥルーをみて近づき、なでて「ショパンを弾くときはこの子の顔を思うわ」と言った。彼女はピアニストだった。「名犬リンチンチン」の懐かしい映像も出てくる。それに、劇中使われる詩がやたらと多い。ひとつだけあげよう。ナレーションはマリアンヌ・フェイスフルだ…う〜ん、遠い記憶の底からよみがえるこの名前。ヒントはアルト・ハイデルベルグ。そう、アラン・ドロンの大学教授(だからこの映画は失敗した)を追ってディオニソスのバイクを疾駆、全裸に革のワンピース・レーシングスーツを着た最初の女性ライダーとなった。おっと、彼女のナレーションで読まれる詩についてだった▼イギリスの詩人スティーブン・スペンダーの詩である。「わたしは絶えず思う/真に偉大な人々のことを/魂の歴史の記憶とともに生まれた人々よ/記憶が通る光の回廊では/無限に歌う太陽が時間だ/彼らの野心はその熱き唇で/精霊について語ることだった」まだまだ長いのだけど。で、ここがどんな映像かといえば、波の上にうかんだ浮きボートに犬が二匹。水面から撮っているものだから、波のうねりとともにカメラが上下する。岸辺にあがった犬はタオルで拭かれ、ドライヤーで毛を乾かしてもらい、犬好きを絵に描いたような人たちの間で、幸福そのもの。どことなくうらやましそうな語調に聞こえるかもしれないけど、そう思う人もいるわよ、きっと。たかが犬どもを下にもおかぬとは、おれなんか一度だってこんな世話などしてもらったことがない、こういう人がたぶん虐待に走る危険があるのだと思うわ。余計かもしれないのはわかっているけど、そう懸念したくなるほど、犬と自分の世界に没頭した映画なのよ。昔の小中学校では「映画鑑賞の日」という行事が授業に組み込まれていて、その日はぞろぞろ学年の生徒たちは先生に連れられ、映画館に行ったものよ。たいてい「文部省特選」だったわ。あれから長じて「文部省特選」はみないことにしたけど、この映画はなつかしき「文部省特選」を思い出させたわ。

 

 

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