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シネマ365日

2015年12月23日

特集「それいけ、アニマルフェスティバル4」⑧
野生のエルザ(1966年 事実に基づく映画)

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監督 ジェームズ・ヒル

出演 ヴァージニア・マッケンナ/ビル・トラヴァース

シネマ365日 No.1608

永遠の命 

特集「それいけ、アニマルフェスティバル4」

野生にもどったエルザが、3頭の子供ライオンを連れて、アダムソン夫妻に会いにくるラスト。何度みても胸が熱くなる。動物映画の古典中の古典です。ジョージとジョイ(ヴァージニア・マッケンナ)はケニアの狩猟監視官。人喰いライオンが出現し、オスメスどっちも射殺する。生まれてまもない子供が3頭いた。夫は連れて帰り、妻はそれぞれに名前をつける。いちばん小さく、賢く、ヤンチャで、いちばん先にジョイになついたのがエルザだ。毛糸のかたまりみたいな子供ライオンの太い前脚、ネコパンチの応酬、あらそって飲むミルク、ドタドタと家中を荒らしまわる傍若無人のふるまいが、夫妻には可愛くて仕方ない。エルザとジョイは一心同体だ。エルザは片時もジョイのそばを離れず、サバンナのどこにでもついてきた。成長したライオンを飼っておくわけにいかなくなり、ロッテルダム動物園に送るはずが、エルザと別れる妻の、あまりの落ち込みように、夫は空港からエルザを連れて戻る▼こういう感情の通い合いって、あるのよね。エルザと会話する妻に夫はあきれるが、そのうち(アブナイ。おれまでしゃべっている…)状態になる。エルザという牝ライオンの行動や仕草、性格が、いちいち新鮮だ。大きな頭。鋭い眼光。しなやかな体躯ですりよる甘え方。一撃で牛をも倒す前脚。ぐるぐると低く鳴らす喉声。腹をみせて寝たときの巨大な図体。エルザを連れ、インド洋に面した小さな村に、人喰いライオンを退治しに出張した夫妻は仕事を終え、エルザを海に連れて行く。はるばると広がる海がなにか、エルザにはわからなかったが、それもつかのま、たちまち沖へむかって泳ぎだした。へえ〜。ライオンって、練習もせず、いきなり上手に泳げるのや〜。でもこれが最後の休暇だった。発情期を迎えたエルザは親となる条件を整えた。まもなく事件が起きた。象の群れと遊んでいたエルザはおもしろがって走り回り、興奮した象は暴走して、村の畑を踏み荒らしてしまったのだ▼夫妻もまた帰国する時期が近づいていた。エルザを動物園にやる、どうしてもジョイはそれができない。サバンナの自由も、野生動物のパワーも奪われたライオンが、幸福であるはずがない。ジョイはエルザを野生にもどすと決める。エサのとりかたも、狩りの仕方も知らないエルザが、生き残れるとは思えないと夫は反対だ。「どうせ死ぬ。いま射殺するほうがましだ」「動物園ではみじめな思いをするだけよ。教えるわ。賢い子よ。きっと覚えるわ。3ヶ月だけ待って」。しかしエルザにとってほかの動物を追いかけることは狩りではなく遊びだった。イボイノシシを追い回しても、イノシシが反撃するとジョイのところに逃げてくるのだ。夫妻は心を鬼にして、一週間、エルザをサバンナに置き去りにした。一週間後もどってきて、合図の銃声を鳴らすと、どこからか現れたエルザはガリガリにやせ、足もふらふら、餓死しかけていた。悪夢は現実となったのだ。「エサは取れない。群れにも入れない。野生に返すのは、エルザに苦痛と屈辱を与えるだけだ」と夫。「野生の子よ。自由に生きる権利があるわ」「君の本心はエルザを手放したくないだけだ。エルザをここに置いて、時々あう気なのだ!」。悪いけど、ここ、笑ってしまったわ。だってその通りなのだもの。ジョイはエルザと、心底離れたくないのよ。死ぬかと思われたエルザは、体力を回復したあと、以前とは違うライオンになった。自分からどんどん狩りをしはじめた。死の危機に瀕して、眠っていたエルザの野生が目覚めたのだ。ある日エルザは力強い全力疾走でイボイノシシを倒す。もう飢え死にはしない。夫妻はつぎの発情期を待って、最も危険な最後の「卒業試験」に、エルザを連れだした▼牡ライオンに出会ったエルザが、まるで別れを告げるように、夫妻のジープの窓ガラスに顔を近づけ、車のドアを太い脚でなで、振り返りながら去っていきます。そこへ現れた牝ライオンとの格闘もあるのですが、「子供のケンカに親出るな」の原則を破り、パパが空に発砲して脅し、牝ライオンを追い払います。帰英した夫妻は、イギリスでの休暇を早めにきりあげ、エルザと別れた自然保護区に戻ってきます。猶予は一週間。キャンプを張ってエルザを待ちますが、いっこうに現れません。最後の日、あきらめた夫妻がテントをたたもうとする。低い唸り声がきこえた。そこにライオンが。ひとめでわかった。エルザだった。エルザが子供たちを連れてきたのだ。ここで流れる「ボーン・フリー」の決まったこと。これじゃどんな偏屈な協会員でも、アカデミー歌曲賞・作曲賞に一票いれちゃうでしょうね。エルザと子供たちのその後については、ジョイの著書「永遠のエルザ」があります。エルザとの告別、エルザが残した3頭の子供たちへの無償の愛…。ジョイの死は、一時ライオンに殺されたと報道されましたが誤報でした。犯人は金品目当ての強盗殺人でした。ジョイに先立たれたジョージも密猟者によって殺害されます。シガニー・ウィーバーの「愛は霧の彼方に」でもそうでしたが、アフリカで動物を保護しようとする研究者や狩猟監視官は、いつも密猟者たちの襲撃の危機にさらされています。ジョイもジョージも悲劇的な死でした。エルザは夫妻の人生に歓びと愛を与え、彼らはエルザに永遠の命を与えたといっても言い過ぎではないと思えます。見終わってなおその感を強くしますが、「野生のエルザ」とは、ほかの言葉に置き換えようのない、邦題の、美しい傑作でした。

 

 

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