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特集「銀幕のアーティスト」

2015年12月25日

特集「銀幕のアーティスト5」②
グランドピアノ 狙われた黒鍵(2014年 サスペンス映画)

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監督 エウへニオ・ミラ

出演 イライジャ・ウッド/ジョン・キューザック/ケリー・ビシェ

シネマ365日 No.1610

主人公はモデル290 

特集「銀幕のアーティスト5」①

スペイン映画伝統のスパニッシュ・サスペンス。オープニングは秀逸でしたよ。運びだされるグランドピアノはベーゼンドルファー・モデル290。スタンウェイ、ベヒトシュタインと並ぶピアノ製造御三家。とくに「290」はふつう88鍵のキイが97鍵。なぜ97鍵のピアノでなければならなかったのか、があとでわかります。「290」は全工程を手作業で作ります。井型に組まれた支柱、張り渡したピアノ線がスクリーンにアップになり、機能美と秩序美の極致ともいうべき、幾何学的な美しさにほれぼれします。ある屋敷は厳かなまでに古びた大邸宅。彫刻や古代の遺物などがほこりに埋まっている。クラシックな屋敷に眠る世界最高のピアノ。所有者は主人公トム(イライジャ・ウッド)の師であるパトリックだ▼恩師の追善公演でトムは演奏することになった。曲は、パトリックとトム以外世界で弾けるピアニストはいない難曲「ラ・シンケッテ」だが、5年前この曲の最後の4小節を間違え、トムは引きこもりになって沈黙した、といういわくつきの曲だ。ところが感動的だったオープニングから数分たつと、なんだか(この映画、信用していいの?)という妙な気分に陥る。主人公は空港についてから女房にケータイで長々としゃべるのだ。5年間のブランクを取り返すべく、「いざ決戦」に臨む男がこれだ。妻は女優である。多くの取り巻きが家につめかけ、演奏会に同行しようとしている。夫は空港から直接コンサートホールに入るらしい。妻が迎えによこしたリムジンの中で、もぞもぞとタキシードに着替える。カムバックする緊張が解けず、楽屋でもトムは落ち着かない。小柄なイライジャが、眉間にシワをよせてうろうろするのは、ハツカネズミがくるくる回っているみたいだ。彼は本当に世界的なピアノの名手なのか。いざ演奏が始まると、楽譜に「一音でも間違えたら殺す」と書いてありそれでなくともナーバスになっているトムは驚愕する。演奏どころではない。どういうことかもちろん映画をみているほうもわからない▼ネタバレでいくぜ。そのほうがよほどこの映画はスッキリする。パトリックにはスイスの銀行に隠し財産があった。パトリックは金庫を開ける鍵をグランドピアノのどこかに蔵した。それを取り出すためには「ラ・シンケッテ」を100%完璧に弾かねばならない。それによって符合する仕組みを、パトリックと錠前屋(ジョン・キューザック)がピアノのなかにこしらえた。パトリックは死んだから、「ラ・シンケッテ」を弾けるのはトムだけである。そこで錠前屋はトムに演奏会当日、楽譜に書きつけるという形でメッセージを伝えたわけ。あきれた。こんな面倒なこと、する必要あるの? 鍵なんて溶けるものでも減るものでもないでしょうが。錠前屋だから戸締まりした家を解錠するのはお手の物だろうし、あんまり気は利かなかったけど、劇中手下もひとり出てきたじゃないの。パトリックの家に忍び込んでピアノを解体すればすむ話を、いちいちオオゴトにするのは、映画のためのたかが作りごとで、全然リアルな説得力はないわよ▼トムは脂汗流して演奏するのだけど、そのいっぽうで犯人のウラをかこうと、演奏中のわずかな間隙にいきなりピアノから離れ、指揮者は仰天、ピアノの演奏箇所にくるまでにササッともどってくる早業。なにをしに行ったのかというと楽屋に犯人からの指示が入るイヤホンを取りに。ついでにケータイも持ってきて、演奏の合間にメールは打つわ、ケータイで友人に指示をだすわ、何なの、この人、軽業師でもやれば?▼ボックス席にはトムの美しい妻エマ(ケリー・ビシェ)がいる。犯人の魔手は「エマも殺す」だって。トム、というよりイライジャの悲壮な演奏にもかかわらず、後半しらけてしまうのは、犯人の目的がただのヘソクリ狙いという矮小なこと。莫大な財産かもしれないけど、そのスケールも明らかにされないし、ということは、しょせん人様の隠し金を横取りするしわざを、ことさらふくらませて中身を薄くしてしまった、となるのね。この手の失敗は、ミステリー映画にはよくありましてね、「そんな面倒な殺し方、わざわざする必要ないだろ」とか「お膳立てばかりややこしいけど、やることはもっと簡単にすむはず」という話は案外多いのだ。ましてイライジャの表情があの通り悲観的・厭世的・神経的でしょ。始めから終わりまで、主人公がついに一度も、ニコリともしない映画も珍しい。うますぎる演奏? イライジャの顔だけ、コンピューターで張り替えたのでしょ。そうそう、97鍵の秘密ね。「ラ・シンケッテ」の最後の4小節は、普通のピアノにはない、モデル290だけにある黒鍵を弾くのね。するとコトリ、小さな音がした。いいたくないけど、このとき(ラストシーン)のピアノはガタガタに壊れているのよ。それなのに、トムが4小節だけポロンポロン弾いて鍵が出てくるなら、一音もまちがうな、なんてどんな意味があるっていうのよ。いいかげんにしろ。だいたいキューザックが現れたときは(この映画信用していいの?)という疑問は、ほぼ確信に変わっていたけどね。

 

 

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