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特集「銀幕のアーティスト」

2015年12月27日

特集「銀幕のアーティスト5」④
パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト (2014年 伝記映画)

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監督 バーナード・ローズ

出演 デイヴィッド・ギャレット/ジャレッド・ハリス

シネマ365日 No.1612

5億円のストラディバリウス

特集「銀幕のアーティスト5」①

パガニーニを演じたデイヴィッド・ギャレットに尽きますね。演奏家、とくにピアニスト、ギタリスト、ヴァイオリニスト、チェリストを扱う映画は、弾いているシーンが決まるか決まらないかでその映画はわかれそうな気がする。ボディが弾けばいいかっていうと、やっぱり俳優の「らしさ」って決め手なのよね。たとえ音は出せなくても、指使いだけで「マア、すごく練習したものね」と驚いた例に「愛を弾く女」のエマニエル・ベアールや「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」のエミリー・ワトソンがいたわね。自分で演奏できる俳優って、それだけで最高だわ。だって、絵描きだとキャンバスに向かって描いているところをいくら映したった、たいした動きがあるわけじゃなし、絵にはならないわ▼それに比べたらこの映画、スタートした時点で一馬身リードね。なにしろどの映画評みても、二言目には「超絶技巧」の枕詞がつくパガニーニを、デイヴィッド・ギャレットが、5億円の愛器ストラディバリウスで弾くのよ。バーナード・ローズ監督って、それでなくとも音楽もの、とくに演奏ものに強いじゃない。「不滅の恋/ベートヴェン」「クロイツエル・ソナタ」などあります。蛇足だけど、ギャレットについて触れれば、今年(2015)34歳。ドイツ出身のヴァイオリニスト兼モデル。モデルというところが癪だわね。そう「ヴァイオリンのベッカム」とは彼のことです。父親も母親も練習に厳しく、7歳になるまでにオランダにレッスンに通わされた。一種の英才教育で、ヴァイオリンに専念させるため、学業は自宅で家庭教師に習った。13歳でドイツ・グラモフォンと契約した。同社で録音した音楽家って最高よ。日本人では小澤征爾や西本智実がいるわ▼肝心のパガニーニの、いやギャレットの超絶技巧だけど、これが見ているだけで楽しいのよ。料理人の包丁さばきとか、マラソン選手の走りとか、水泳選手の泳ぎとか、単調そのものなのだけど、ひとつも飽きないどころか、なぜか引き込まれない? ましてギャレットの指は異界の生き物よ。ピアニストでもそうだけど、楽器を演奏する人って、うまいとか、下手とか言う前に(ふうん、人間の指って、こういうふうに動くものなのか)って、みとれるしかないものがあるわ。映画ではパガニーニができすぎだけど、彼が主人公だから、まあ、仕方ないわね。天才的な人間って、人格破綻者が多いからね、まして悪魔の演奏家なんて、人間離れした賛辞を浴び続けていたら、おかしくもなるか。パガニーニの死因は結核だと言われていたけど、じつは水銀中毒で、梅毒の治療によるものだった、と今では定説になっている。酒浸り、賭博好き、女好き。金に困ってヴァイオリンをカタにおいてきたこともあった▼そんなハチャメチャな彼が成功したのは、彼の才能に目をつけたマネージャーのおかげだ。映画に出てくるウルバーニは、実在のマネージャーをかけあわせてこしらえた人物で、「君はナポレオンを凌ぐ帝国の支配者となれる」と激賞し「才能と技術に問題はないが、欠けているのは物語だ」と、作家のような文学的な批評に、パガニーニの天才の血が目覚める。彼は辣腕のマネージャーだった。ウルバーニは、パガニーニが唯一愛した女性、シャーロットと別れさせます。仲が続いていたら「彼女はお前の血が宿る悪徳に染まり、堕落したにちがいない」という理由で。じつのところ、シャーロットはパガニーニとの共演で、歌の才能を認められ世に出たあと、いい人ができたからおつきあいはこれまでに、と別れたのです。傲慢なパガニーニを彼女は最初どうしても好きになれませんでした。指揮者であり、かつプロデューサーとして彼をロンドンに招聘した父親の、金銭的な苦労も知らず「ホテルはワンフロア独り占め」という贅沢な注文に煮えくりかえる。でもある夜、居酒屋で即興のヴァイオリンを弾いたパガニーニのスキルに不安は消え、久しぶりに心落ち着いて歌の練習をした。それをパガニーニが聴いた▼美しい声に魅了され、パガニーニは自分の作曲した曲を歌ってくれと頼みます。ヴァイオリンを爪弾き、シャーロットが歌う「あなたを想っているわ、アモーレ/低い声でうめくように波がうねる/たとえ遠くにいてもわたしはあなたと共にいる/あなたが遠くにいてもわたしはあなたの近くにいる」歌声とヴァイオリンが響く美しい場面です。ふたりは初めて音楽家としてリスペクトをわかちあいます。ここのシーン、よかったですね。愛器についていえば「80人のオーケストラをバックに、アンプなしに存在感を示せる楽器となると、ガルネリかストラディバリウス」らしいです。

 

 

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