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特集「銀幕のアーティスト」

2015年12月30日

特集「銀幕のアーティスト5」⑦
美輪明宏リサイタル ≪愛≫(1991年 パルコ劇場)

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構成演出 美輪明宏/永松彗一

出演 美輪明宏

シネマ365日 No.1615

とんでもない老女優

特集「銀幕のアーティスト5」

美輪明宏さんのリサイタルを聴いたり、芝居をみたりして、どこがよいかをしゃべっていたら、わが社のイベント専任者が美輪さんを、当社主催の文化講演会の講師として招いたことがあります。紙面に掲載したとたんチケットは完売、美輪さんを呼んでまちがいなかったと、これはちょっとしたわが社の自慢です。その後美輪さんは講演をなさらないときいたので、なお貴重な経験となりました。ビデオやCDは持っていたのですが、DVDを見て、本欄のアーティスト特集に選びました。どこがいいと聞かれても、「とにかく芸の力ですね」くらいのありふれた感想しか言えないのですが、映像で見なおして、とても楽しいことが確認できました。アップになったときの美輪さんの顔、とくに正面から睨みつける顔はじつにふてぶてしい(笑)▼いかに不敵か、これは客席からではとらえられなかった表情です。宙の一点にヒタと視線を定める不動の眼。歌舞伎のメヂカラどころではない。大きくカットしたドレスから大胆に見せた背中。たっぷりした声に繊細な声域、高々と腕をふりあげ、身をよじり悶える。ステージでの美輪さんのアクションはダイナミックです。歌と歌のあいだにいれるナレーションが、ちょっとしたドラマでして、たとえば、恋をすると人はミミズの寝言のような他愛ないことを言い、自分のものだとかあなたのものだとか、所有権の確立を唱えたりする、でもなかには恋も愛も知らず、人糞製造機になってしまう悲劇もあると述べ「わたし自身のことをいえば、恋なんてもう何年も縁がない、仏さまのようなもので、そのうち後光がさすのではないかしら、などと思いながら、昔の残り火をかきたて、この歌をお届けすることにします」とここで「バラ色の人生」が始まります。美輪さんが尊敬するエディット・ピアフのくだりは、特に熱がこもります。ピアフは恋人を飛行機の墜落事故で失ったあと、ドラッグとアルコールに溺れ、40過ぎだというのに100歳の老婆のようになって病院の片隅にいた、「神様は良心がとがめたのか、21歳年下の長身のギリシャ彫刻のような美しい青年と出会わせた。彼は心からピアフを愛し結婚を申し込んだ。世間は言いました。あんな子供をだますなんて…ピアフはオリンピア劇場で奇跡のカムバックをはたし、この歌をうたって非難に答えました」ここで「愛する権利」です。「人が人を愛することは罪ではない。男が女を、男が男を、女が男を、女が女を、年寄りが若者を、若者が年寄りを、人間同士が愛しあうことは。殺したわけでも盗んだわけでもない、人はみな幸せになる権利がある。わたしにも、また」肺活量総出力です▼美輪さんには多くの著書がありますが、そのどれかに書いていました「自分のリサイタルにお客様はお金を払って来てくださっている、満足して帰ってもらおうとしたら、一生懸命やるしか、もうそれしか考えられない、ほかのことなど考えておれない」たしか人生相談で、行き暮れる方への回答でした。全身全霊を捧げる、これが美輪さんのステージを最高にしているのだと思います。ラストは「愛の讃歌」です。原詞に忠実に歌う、という姿勢が、業界の反感をかい、食うや食わずにまで困窮したと、どこかで読みましたが、波乱万丈こそ、今日の美輪明宏を創りあげた「親友」でしょう。アンコールは極めつけの代表作「老女優は去りゆく」。この曲を我が家で最初に聞いたのは、わたしではなく、母でした。しみじみと「よかったよ」と言ったのです。そのときの年齢を逆算すると、美輪さんはまだかなりお若かったはず。へえ〜でもそれで(「老女優」なんて作るんだ)と内心驚いた記憶があります。でもこれは物理的な、年齢的な老女優ではなく、人生で人が自分の舞台をつとめ、つぎつぎ役を終えてつぎの役に挑む、挑戦とは新陳代謝の連続であるわけですから、逆をいえばいつ、どこででも過去となった老女優は脱皮して、新生しなければならないのです、そうでも考えないと、あの美輪さんがしおらしく、くたばるワケないでしょ(笑)▼この歌のあとに続く恒例のフィナーレを、ファンはよくご存知です。泣きながら、よろめきながら舞台の袖にたどりついた美輪さんが、カーテンのはしを握り、あえぐ息をしずめ、頭をめぐらし客席にキッと一瞥を投げると、不死鳥のごとくはばたきながらステージ中央にもどります。これが「老女優は去りゆく」の美輪さんの真意だと思います。哀れなまでにしゃがれた声も、彼の「七色の声」のひとつにすぎないのですが、それにしてもすごいというか、えげつないというか、ずる賢いというか、とんでもない老女優ではあります。

 

 

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