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2012年1月19日

旅を通じて高齢者や障がい者・東日本大震災の被災者と絆を結ぶ

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特定非営利活動法人 しゃらく

生きるため・夢を手に入れるために「旅をあきらめない」人たちをサポート

 旅先での出会いや発見にドキドキわくわく、心が躍る出発前。現地でしかできない体験を楽しみ、おいしい料理に舌鼓を打つ旅先。そして楽しい思い出話に花が咲く旅の後…。年齢やさまざまな障害などで旅することが困難な方をサポートし、プランニングから訪問先での介護・補助、自宅に送り届けるまでを一貫して行っているのが、NPO法人「しゃらく」(兵庫県神戸市)です。
 発起人の一人で事業部長の須貝静(すがい・せい)さんが「高齢者や障がいをもった方の旅行事業を手掛ける原点となった」と振り返るのが、10数年前の中国雲南省への旅です。
 少数民族と交流するため雲南省を訪れた須貝さんは、現地で偶然、アジア各国を放浪していた小倉譲さん(当時19歳・現「しゃらく」代表理事)と出会います。貧しくても笑顔を絶やさず、人生を謳歌している村のお年寄りたち。生き生きと暮らすその姿をみて、二人は同じ思いを抱きます。『この村のお年寄りと比べて、日本の高齢者はどうしてみんな元気がないんだろう』。しかし、若い二人には具体的な行動を起こす術も知識もなく、割り切れない思いを抱いたまま帰国の途に就きました。
 少数民族の村を訪れてから9年後、サラリーマン生活を送っていた須貝さんの元に帰国してからも連絡を取り合っていた小倉さんから、その後の運命を決める依頼が舞い込みます。「世の中に貢献する組織をつくりたい。そのために力を貸してほしい」
 87歳になる祖父の故郷への旅を通じて、旅のもつ魅力や感動・前向きに生きるための力の源に気づいた小倉さんの言葉に、須貝さんも心を動かされます。「旅に出ることで笑顔になれる。生きる希望がわいてくる。でも、いろいろな事情で旅に出られない人が、いっぱいいる」。そのとき須貝さんの脳裏に浮かんだのが、いつか出会った少数民族のお年寄りたちです。『あのときの笑顔にもう一度出会えるなら。少しでも力になれるなら』。2006年冬、須貝さんを含め小倉さんの言葉に共感した3人が、活動の拠点となる神戸に集まりました。

 NPO法人を立ち上げたものの、事業所の開設も運営資金の目途も立ちません。須貝さんは総合旅行業取扱管理者の資格を取得するため勉強に励む一方、経費を抑えるため六畳一間を4人で借り、「スーパーのタイムセールで買った1個のコロッケを4人で分けるような生活」(苦笑・須貝さん)を2年間続けました。
 文字通り爪に火を点すような耐乏生活を経て、08年4月、要介護2までの高齢者と障がい者を対象にした「しゃらく旅倶楽部」がスタートしました。事業を始めて須貝さんが気づいたのが、高齢者自身が旅することをためらっているという現実です。「旅に出ることで周囲の人に迷惑を掛けるのではないか」、あるいは家族からの「旅に出ることでどれだけたくさんの人に迷惑をかけることになるのか」といった忠告など、「せっかく外出しようという気になってもお年寄り自身が我慢をしたり、周囲の人が高齢者の意欲や気力を奪っている」(須貝さん)
 そのため「しゃらく旅倶楽部」では、利用者に「どこに行きたいのか」「何を楽しみたいのか」など、事前に徹底したヒアリングを行う一方、一日のトイレの回数や介助の有無・自宅の手すりの位置や高さといった点まで調べ上げ、旅先で対応が可能か、高齢者の負担にならないか細心の配慮を払っています。

 利用した方が「旅に出て良かった」「また旅をしてみたい」と思ってくれるなら、できる限り・考え得る限りのサービスを提供する。「しゃらく旅倶楽部」の基本理念に忠実であればあるほど、須貝さんをはじめとするスタッフの負担は増えますが、そうした姿勢が望外の喜びややりがいにつながることも少なくありません。
 子どものいない80歳代のご夫婦から依頼を受けたときのこと。40歳代のころ、夫婦が柴犬をわが子のようにかわいがっていたことをヒアリングで聞き出した須貝さんは、旅先で柴犬を飼っている家庭を探し出し、旅行当日、ご夫婦にサプライズサービスを演出しました。「予想通りご夫婦には、とても喜んでいただいた」という須貝さんですが、「さすがにその時は周囲から『そこまでやるか』と感心されるやら、呆れられるやら」と苦笑します。
 コストや安全面から大手旅行会社が慎重にならざるを得ないパック旅行にも、「しゃらく旅倶楽部」では持ち前の機動力と経験を活かして積極的に取り組んでいます。また、社会貢献活動にも意欲的で、東日本大震災後には旅行代金の10%を被災地の高齢者や神戸に避難してきた被災者の旅行資金のために積み立て、秋には宮城県南三陸町の仮設住宅で暮らす高齢者を山形県内の温泉に招待しました。
 旅に参加した被災者の中には「震災後、初めて心から笑った」という方もおり、須貝さんは「意識する・しないにかかわらず、被災された方は心の中でどこか無理をしていることを実感した」といいます。また、旅の開放感を被災者とスタッフが共有することで強い絆が生まれ、須貝さん自身「一生忘れられない旅になった」と振り返ります。
 08年の事業開始以来、「しゃらく旅倶楽部」を利用して旅に出た高齢者・障がい者は860人(11年12月現在)を超えました。これまでのさまざまな出会いや体験を振り返りながら須貝さんは、「高齢者や障がいをもった方が、いきなり旅に出ようと思わなくてもいい」と話します。「記念の場所や故郷を思い出し、一歩外に踏みだそうという気持ちが何より大切なんです」
 いつか見た少数民族の笑顔にもう一度出会いたい。そんな純粋な思いから始まった須貝さんの旅は、ふれあいと温もりを道連れにこれからも続きます。

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